鳥インフルエンザ農業情報研究所環境感染症2017124日(25日補訂)

 舎内密閉、大量殺処分の家禽インフルエンザ対策の成否は運次第 フランス科学者

  先日、鳥インフルエンザ雑感 鳥インフルエンザと戦うもっと有効でスマートな戦略はないのかと、専門家や家畜衛生当局、そして養鶏関係者を激怒させるかもしれない記事を書いた。言わんとするところは、野鳥からの感染を防ぐために家禽を密閉した鶏舎に閉じ込め、舎内に閉じ込められた鳥の一羽でも感染したら同一舎内・同一養鶏場内の鳥をすべて殺処分、土に埋めることで感染拡大を防ぐという鳥インフルエンザ掃討標準戦略の無効性を主張することではなく、それが100%有効でないかぎり、もっと有効でスマートな戦略はないのかと疑問を呈することだと断った。それでも、諸氏の怒りを和らげることはできないだろう。しかし、より有効でスマートな対鳥インフルエンザ戦略を希求する心は変わらない。

 そんな私にフランスから思わぬ援軍が現れた。117日、フランス農業省で鳥インフルエンザをテーマとする集会が開かれた。そこで科学者たちが、当局が要求する“峻厳な”措置に異を唱えたというのである。諸氏の怒りを増幅するだけかもしれないが、これを報じるフランスメディアの報告・« Les abattages massifs ne sont pas la solution »La France Agricole,17.1.17)を翻訳・紹介したい。

 ウィルス学が専門のボルドー試験所長・エルベ・フローリィ(Hervé Fleury)教授が言うに、「人々は過去一年、ウィルスを持つ養鶏場を破壊してきた、今年はまた別のウィルスが別の動物を襲っている。これには驚くほかない。既存の戦略が適正なものかどうかが疑われる」。彼は過去1年の防疫活動は、甚大な社会的・経済的損害を避けるために何の役にも立たなかったと推理する。

 別の2人の引退獣医もこれに同調した。3人は翌日、飼育しているガチョウとアヒルが殺されたドルドーニュの農場を訪れた。彼らは、一産業部門の存続を脅かすドラスチックな措置の不条理を告発した。

 思いつく解決策の一つは密閉だ。だが、現地の生産者は、「それは我々の生産方法に反する。我々のアヒルはアウトドアを必要としている」、なによりの問題は、そんなことをすれば消費者の高い評価を受けている保護地理表示産品や原産地呼称産品を失ってしまう恐れがあることだと言う。

 エルベ教授は、H5N8ウィルスを運ぶのが野生動物であることを誰もが認めている、とすれば家畜だけに限った対策が実を結ぶかどうかは運次第、ウィルスの流通、動物飼育、人間の間の自然・エコロジー的均衡を見だすのが解決策だと言う。

 3人は、フランスでは禁止されているワクチン接種についても大っぴらに言及した。

 「東南アジアのいくつかの国、とくにベトナムでは2003年から2006年にかけ鳥インフルエンザが猖獗を極めたが、ワクチン接種で「均衡」に辿り着いた(*)。我々は何故、これらの国の経験を精査し、それから学ぼうとしないのか」と言っている。

 *韓国・日本・ヨーロッパでH5N6鳥インフルエンザが猖獗を極めた2016年、ベトナムではH5N1一件、H5N6一件の発生例が報告されただけである(国際獣疫事務局=OIEに報告された限りでだが)。感染が疑われたのは何れも庭先で飼われている3700羽、800羽、それぞれ300羽、700羽が死亡、500羽、3000羽が殺処分された。例えば2004年、1月9日から24日の間に290万羽の鶏が疑われ、殺処分されていた。それと比べて大違いである。これが「ウィルスの流通、動物飼育、人間の間の自然・エコロジー的均衡」というものかと思う。ウィルス、養鶏、人間が、つまり自然と人為がほどよく折り合っている(農業情報研究所)。

 (念のため言っておくが、ワクチン接種を推奨しているわけではない。それを含めた対策も考えられないかというだけである)

  と言っている間に日本では宮崎の家禽農場で今季9例目の鳥インフルエンザ勃発、殺処分数は2010-11年シーズンの183万羽に続く131万羽になった(鳥インフル:宮崎・木城でウイルス検出 16万羽を殺処分 毎日新聞 17.1.24。あと数農場で勃発となれば、この最高記録を超す恐れもある。「再び緊張と不安の日々が続く養鶏農家は、気落ちしつつも「防疫を徹底するしかない」と前を向いた」(「またか」農家ら衝撃 木城で鳥フル 宮崎日日 17.1.25 )そうであるが、今問われたいるのはわが国防疫体制のあり方そのものではないだろうか。万全と思われる防疫措置も功を奏さなかった例も現れているのである(山県の鶏舎、隙間や破損なし 鳥インフルの調査続行(岐阜) 中日新聞 17.1.21