農業情報研究所環境森林ニュース:2011年2月2日

ナラ枯れ蔓延の原因は里山放置等気候変動と無縁な環境要因の変化 森林総研の新研究

  森林総合研究所のカシノナガキクイムシの遺伝的変異の解析は、最近顕著になっている「ナラ枯れ被害は、気候変動等により「カシノナガキクイムシ」が南西から北東へ急激に分布を拡大したためではなく、里山の放置等による樹木の大径木化など、他の環境変化に原因があること」を「強く示唆」しているそうである。

 森林総合研究所プレスリリース ナラ枯れは「地元」のカシノナガキクイムシが起こしている−遺伝子解析が示すナラ枯れ被害拡大の要因− 2011年1月31日
 http://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2011/20110131/documents/20110131.pdf
 研究論文本文:http://www.biomedcentral.com/1472-6785/10/2

 プレスリリースによれば、「ナラ枯れがなぜ猛威をふるうようになったのかには大きく二つの仮説が知られています。一つは、もともと涼しいところに生育するミズナラに、それまで生息していなかった南方系のカシノナガキクイムシが温暖化等により分布を北上させて接触し、共進化の関係がなかったために激しい被害が出ているとする仮説です。もう一つは、ナラ類が燃料として利用されなくなって、本種の寄生に適した大径木が増えたことなど環境条件の変化によって大発生しやすくなり、各地の個体群がそれぞれ急増したという仮説です。そこで、遺伝子に残されたカシノナガキクイムシの分布の変化の跡をたどることにより、2つの仮説を検討し、被害拡大の要因を探ることを試みました」というとだ。

 研究の結果は次のとおり。

 「最北端の被害地である秋田県から京都府にかけての14地域のカシノナガキクイムシ集団について、マイクロサテライトマーカー用いて遺伝的構造を調べました。その結果、本州の北東部と南西部ではカシノナガキクイムシの遺伝的組成が異なっていることがわかりました。このことから、本州南西部のカシノナガキクイムシが本州北東部に分布域を広げたのではないことが分かります。ナラ枯れの被害を受けるミズナラやコナラも、これと同様に北東部と南西部で遺伝的組成が異なることが知られていま す。

 こうしたことから、現在大発生しているカシノナガキクイムシはその寄主であるナラ類とともに、それぞれの地域で長い時間をかけて共進化してきたものと考えられます。従って、カシノナガキクイムシが近年に北上したという仮説は支持されません。逆に、ナラ枯れ被害はその地域にもともと生息していたカシノナガキクイムシが、環境条件が好転したために大発生ていることが示唆されます。また、同じ地域の中でも場所が離れると遺伝的に遠くなることが認められましたが、それは大発生した本種が近隣に移動し、その場所の個体群と交配しながら大発生し、さらに近隣の場所へと少しずつ分布を拡大しているためと推察されます」。

 しかし、この研究によって、好転した「環境条件」が「里山の放置等による樹木の大径木化」だとどうして確認、あるいは断定できるのか。もともと地元にいたカシノナガキクイムシを大発生させた環境条件の変化に「気候変動」が含まれる可能性を何故排除するのか、やはり我田引水の結論の匂いがする。未だ大発生が見られない白神山地や八甲田には、カシノナガキクイムシはもともといなかったとでもいうのだろうか。それとも、気候変動とはまったく無関係な「少しずつの分布の拡大」が、まだこの地まで到達していないだけということなのだろうか。

 ともあれ、大径木は昔からいくらでもあった。それでも大発生はなかった。この事実はどう説明するのだろうか。