米国食品医薬局(FDA)、動物に使われる抗菌剤のリスク評価の指針を発表

農業情報研究所(WAPIC)

0310.25

 10月23日、米国食品医薬局(FDA)は、家畜に使われる新たな抗生物質が人間に有害でないかどうかを動物医薬品メーカーが評価するための新たな指針を発表した(FDA Issues Guidance on Evaluating the Safety of Antimicrobial New Animal Drugs to Help Prevent Creating New Resistant Bacteria)。これは、動物に抗菌剤を使うことから生じ得る抗菌剤抵抗性を防止するための証拠に基づく包括的アプローチを初めてまとめたものだという。

 抗生物質のような抗菌剤は、人類の歴史における大量死の主因の一つをなしてきた感染症を防止するために極めて重要な役割を演じてきた。しかし、それは人間だけでなく、家畜にも使われるようになり、しかも病気治療だけでなく、家畜の成長を促進するために小量を飼料に混ぜるような使い方も現代畜産では一般化している。人間の病気治療に抗生剤が乱用されるとともに、このような家畜への使用が最近の薬剤抵抗性を発達させ、人間の治療を難しくする恐れがあるという指摘が早くから行なわれ、現にそのような細菌が急速に増えてきた。この問題は人類の将来を左右する重大問題の一つをなしている。

 EUは人間に使われる抗生剤の飼料への添加は禁止してきたが、この7月には、モネンシン・ナトリウム、サリノマイシン・ナトリウム、アヴィラマイシン、フラボフォスフォリポールの四つの薬品(いすれも、日本で飼料添加物として指定されている32種の抗生物質のなかに含まれる)の使用も禁止する規則を成立させ、成長促進のための抗生物質の使用を段階的に全廃することになっている。

 FDAのアプローチはこれとは異なり、家畜への抗菌剤使用の効用を棄てることなく、同時に人間へのリスクを排除しようとする試みである。発表された指針は、動物の治療に使われる抗菌剤が、この動物の肉やその他の副産物を消費する人間に抵抗性問題を引き起こす「見込み(liklihood)」を評価する方法を提供する。こうすることで、この問題を引き起こす高度なリスクのある抗菌剤が食用動物に不適切に使用され、人間における抗菌剤抵抗性につながることことを防止するが可能になるというのである。ただし、この指針は「規制」ではなく、薬剤メーカーが食用動物に使用される抗菌剤の承認を求めるときに使用できる科学に基づくプロセスを説明するものである。要件を満たすかぎり、安全確認の別の方法を使うこともできる。この評価がリスクが重大であることを示せば、FDAは販売許可を出さないか、承認する場合にも使用条件を課す。

 この評価のシステムは、1)新たな抗菌剤の使用の結果として動物に抵抗性細菌が現われる可能性を決定する評価、2)人間が抵抗性細菌を取り込む「見込み」を測る推定、3)抵抗性細菌への人間の暴露が人間の健康に悪影響を与えるチャンスの評価から構成され、人間の健康のリスクの全体的レベルを決定するのだという。これによってリスクが本当に排除できるのかどうかは専門家の判断に委ねるほかない。ただ、確かなことは、この指針は新たな薬剤にしか適用されないから、現在広く使われている抗菌剤からくるリスクの排除とは無関係であるということだ。FDAはこうした薬剤のリスクの見直しを進めているというが、それがいつ完成するかの見通しはまったくない。

 わが国は米国の畜産物の大量の輸入国なのだから、この問題をめぐる米国の動き他所事としてではなく、国内の動きとともに、十分な注意を払って見守る必要がある。

 農業情報研究所(WAPIC)

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