養殖鮭がPCB等発癌物質に高濃度汚染―新研究

農業情報研究所

04.1.9

 ニューヨーク・アルバニー大学のデヴィッド・カーペンター等の研究チームが、養殖鮭は野生鮭に比べて10倍もの発癌性化学物質を含むことを、世界的規模の調査で明らかにした(*)。従来もこのことを示唆する研究はあったが、養殖産業はサンプル数が少なすぎると一般化を否定してきた。だが、今回の調査はヨーロッパと北米の16の市で購入した700の養殖・野生鮭を比較したものである。オスロ、フランクフルト、エジンバラ、パリ、ロンドン、ボストン、サンフランシスコ、トロントで購入された鮭の汚染レベルが最も高かった。

 研究チームは、大西洋の養殖鮭と太平洋の野生鮭を比較した。大西洋の野生鮭は、今や非常に少なくなっているからである。彼らは、13の有機塩素系化学物質の濃度が野生鮭においてはるかに高いことを発見した。PCBs、ダイオキシン、DDT、トクサフェン(殺虫剤・殺鼠剤)など、これら化学物質は免疫あるいは生殖システムを脅かし、発癌の引き金となると考えられているものだ。

 最も汚染がひどいのはスコットランドとフェロー諸島で養殖されたものだった。米国環境保護庁(EPA)が使用する発癌リスク評価に従えば、これらの養殖鮭は月に55g以上食べてはならないという。これは標準的な一食分の4分の1だ。カナダや米国メイン州の養殖鮭では、月に一食分の2分の1、チリやワシントン州のものでは月一食分が限界と計算された。対象的に、アラスカの野生鮭は、月に8食分食べても大丈夫という。

 鮭は心臓病のリスクを減らすオメガ3脂肪酸を含むことから、米国では月に数百グラムは食べることが推奨されてきた。研究者は、リスクと便益の分析は複雑だが、大西洋養殖鮭の消費は健康リスクを生み、その便益を減らす恐れがあるとしている。Nature News(Farmed salmon harbour pollutants,1.9)によると、ジョン・ホプキンス大学の公衆衛生専門家・ロバート・ローレンスは、養殖鮭を食べるリスクは一定の人々には便益を上回る可能性がある、中年の者にはよいが、女性や子供にはよくないだろうと言っている。

 このような結果は当然予想されることだ。これら汚染物質は、過去、工業や農業で広く使われ、現在ではあらゆる魚に含まれている。養殖魚は漁油やフィッシュミールを餌として与えられるから、その脂肪中にこれら汚染物質が高濃度に蓄積することになる。カーペンターは、問題を軽減するために、養殖業者は魚に与える蛋白質を大豆や亜麻仁に替え、鮭をベジタリアンにすることを提案する。ローレンス氏も、米国の養殖鮭は牛のような屠殺された農用動物からのリサイクルされた脂肪も与えられており、高レベルのPCBを含むだろう食物連鎖の頂点に立つ動物を鮭の餌にすることが問題を一層大きくしていると指摘、これに同意する。

 だが、NewScientist.comFarmed salmon more contaminated than wild,1.8)によれば、業界団体・「スコットランド高級鮭」のジョン・ウエブスター氏は、汚染は米国食品医薬局(FDA)の安全基準を超えるものではないから安全だと主張している。また、養殖民は、汚染飼料の使用を減らすことで、既にPCBsやダイオキシンによる汚染を最小限にしようと努力しており、鮭の飼料に植物油を導入することも検討していると指摘した。英国食品基準庁(FSA)も、研究が発見した汚染のレベルはWHOや欧州委員会の安全基準の範囲だと、少なくとも週に二回は魚を食べるべきという勧告を変えるつもりはないという(Scare over farmed salmon safety,BBC News,1.8)。ノルウェーの栄養海産食品研究所(NISES)(Norway refutes doubts cast on salmon,Aftenposten,1.9)、フランスの食品衛生安全庁(AFSSA)、米国FDAも同様に主張している。しかし、この報告を受けたスコットランド緑の党党首・ロビン・ハーパーは、鮭が含む一定の汚染物質の調査など、現在の品質コントロールのシステムが失敗している証拠だとして、緊急の調査を要求した(BBC News,同上)。

 ともあれ、わが国は魚食の国であるとともに、養殖鮭の大量輸入国でもある。欧米以上に食べていることは確かであろう。スーパーの店頭で売られる比較的安価な切り身の鮭も養殖ものが主流となっているし、弁当やおにぎりにもよく使われる。購入に際しては、養殖ものか天然ものか見極めるのが無難だろう。ただし、養殖鮭は食べないというわけにもいかないだろう。米国でのBSE発生といい、化学物質汚染といい、我々が安心して食べられる食料は減っていくばかりだ。危険性があるからと食べなければ、食べるものがなくなってしまう。食糧安全保障は量だけの問題ではなく、質の問題でもある。今回の研究はそれを改めて思い知らせるものだ。

 関連情報
 養殖鮭が高レベルのPCB汚染、米国環境団体が報告,03.8.4

 *Hites, R. A. et al. Global assessment of organic contaminants in farmed salmon,Science,303,226-229, (2004).