アメリカ心臓協会 ニューヨーク市のトランス脂肪禁止に懸念 パームオイル等他の有害脂肪に置き換わる

農業情報研究所(WAPIC)

06.10.17

 、ニューヨーク・ポスト紙が、ファスト・フードのトランス脂肪を禁止する提案をほとんどすべての医療団体が支持しているなかで、アメリカ心臓協会の禁止に懸念を表明する書面の証言を手に入れたと伝えている。

 'HEART' ATTACK ON BAN,The New York Post,11.14
 http://www.nypost.com/seven/11142006/news/regionalnews/heart_attack_on_ban_regionalnews_carl_campanile.htm

 ニューヨーク市は、食堂に対し、来年7月までにトランス脂肪を含まない調理油に切り替え、2008年7月までのすべての調整食品からトランス脂肪を排除することを提案している。トランス脂肪が悪玉コレステロールを増やすという広範なコンセンサスがあり、多くの研究が心臓病との関連性を認めているからだ。

  しかし、心臓協会は、来年7月の禁止は余りに性急で、より健康的な代替油が市場になく、禁止は、ひとつの有害物の他の有害物ーパームオイル、ココナツオイルのような飽和脂肪酸を多量に含む代用品ーへの切り替えを強制することになると恐れる。

 「我々は、レストランが飽和脂肪酸、あるいは動物性脂肪を多量に含む油の利用に舞い戻るような意図しない、逆効果の結果になる可能性を恐れる」、「これらの不健康な代替品も重大な健康リスクを生む」と言う。

 市のトーマス・フリーデン保健コミッショナーは、健康的なトランス脂肪フリーの油の供給は十分にあると語ってきたというが、実際のところはどうなのだろうか。トランス脂肪の健康悪影響が喧伝されるにつれて、米国のパームオイル需要が増えているのは確かなようだ。

 マレーシアのビジネス・タイムズ紙は、大豆農家を保護するためにパームオイル反対キャンペーンが行われている米国が、マレーシアのパームオイルの世界第4位のバイヤーになったと報じている。

 US 4th top buyer of Malaysian palm oil,Business Times,11.14
 http://www.btimes.com.my/Current_News/BT/Tuesday/Frontpage/BT594921.txt/Article/

 それによると、米国は、2003年には10番目のバイヤーだったが、去年は6番目のバイヤーとなった。米国のパームオイル需要が急速に増えてきたことは間違いない。この動きは、米国食品医薬局が今年1月から、飽和脂肪酸またはトランス脂肪の表示を義務づけたことにも助けられているという。

 マレーシアのパームオイル輸出は増え続けている。マレーシア・パームオイル・ボードは、1996年以来、パームオイル60%を含む大豆油・菜種油をブレンドしたマーガリンの特許を保持している。これはアメリカ心臓協会の脂肪摂取に関する食事勧告に適合、”スマート・バランス”呼ばれるこの製品は米国で人気を博しているという。

 マレーシア・パームオイル・カウンシルは、パームオイルは他の飽和脂肪酸よりもモノ不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸が多く、米国の消費者は、ますますパームオイルの健康便益を受け入れるようになっていると言う。しかし、世界保健機関(WHO)などは、飽和脂肪酸の含有量が多く、多価不飽和脂肪酸が少ないために心臓病発生を促すことを懸念、その消費を減らすように要請してきた。一体どうなっているのだろう。

 この問題はおくとしても、マレーシアのパームオイル・プランテーション企業は、インドネシアの熱帯雨林破壊と大規模森林・泥炭地火災の元凶でもある。食用油としてのパームオイル需要のこのような増大は、バイオ燃料用パームオイルの需要の増大と重なり、インドネシアの森林を丸裸にし、オランウータンを絶滅に駆り立てる恐れがある(インドネシア 泥炭地破壊で世界第3位のCO2排出国 木材・パームオイル需要と地域経済開発が元凶,06.11.6;インドネシア 森林火災で今年乾季に1000頭のオランウータンが死亡,06.11.7)。

 最近の全米科学アカデミー・プロシーディング誌に発表された大規模な研究は、一般的な印象と異なり、インドや中国も含む多くの国で政府の努力が実を結び、森林が拡大しつつあることを明らかにした。しかし、世界の森林面積の変化に巨大な影響を与えるブラジルとインドンシアの森林は刈り払われつつある。健康と環境に優しいと主張されるパームオイルが、森林破壊と気候変動をますます加速する恐れがある。

 Pekka E. Kauppi et al,Returning forests analyzed with the forest identity,PNAS,Published online before print November 13, 2006
  http://www.pnas.org/cgi/reprint/0608343103v1