スイス企業 日本にも顧客がいるダイオキシン汚染食品添加物の世界的リコールへ

農業情報研究所(WAPIC)

07.8.2

  スイスの食品製造企業・ユニペクチン(Unipektin)がグアーガム*から製造された食品添加物(増粘剤)の世界規模のリコールを始めた。ドイツ企業による品質管理でユニペクチンが製造・輸出したこの添加物にEU基準を超えるダイオキシンとペンタクロロフェノール**が検出されたためだ。チューリッヒのTages-Anzeiger 紙によると、脂肪1グラムあたり12から156ピコグラム(100万分の1の100万分の1グラム)のダイオキシンが検出され、これは1gあたり1-6ピコグラムのEU基準を上回るという。

 *インド等で生育するグアー豆の胚乳部から得られる天然多糖類で、食品添加物として認められており、日本では増粘剤、安定剤、ゲル化剤などとしてアイスクリーム、和菓子、水産練り製品、ドレッシング、タレ、スープ、ソースなど幅広い食品に利用されているという(グアーガム - Wikipedia)。

 **除草剤、殺菌剤などとして使われるが、製剤の副生成物としてのヘキサクロロジベンゾダイオキシンを含むことから、日本では1990年に農薬登録が失効している。

 これを受け、トゥールガウ州の保健専門家が、消費者の健康への影響がないとは言い切れないとして、ヨーグルト、ビネグレット、マヨネーズ、ケチャップなどの増粘剤として使われる ”Vidocrem”と呼ばれるこの添加物の回収を命じた。EUの欧州委員会も7月25日に加盟国に警告を発した。

 Dioxin found in Swiss food thickener,swissinfo,7.30
 
Unipektin - press release on guar gum contamination,7.30
 
The Rapid Alert System for Food and Feed (RASFF):
Weekly Overview - Week 30(7.30)

 ユニペクチンはその報道発表で、汚染の原因は調査中と言いながら、今までの調査からして汚染はインドのグアーガム供給者のところで起きたと言い切っている。ユニペクチンによると、この製品はインドの”Glycols Limited”社が生産したグアー豆の粉から加工したグアーガムを原料に製造されたものだ。この会社のグアー粉はおよそ2年前から調達しており、今まで問題はなかった、植物にも低脂肪の製品(グアー粉)にも大きなリスクは考えられず、ダイオキシン検査はしなかったと言う。

  スイス最大の小売チェーン・ミグロスは、ミグロス・ブランドの三種のクリームパウダーを回収中だが、この事件で商品のイメージが大きく損なわれ、財務上の損害も大きくなる恐れがあると言う。しかし、影響はスイスだけにとどまらない。この製品はスイス、ドイツ、フランス、オーストリア、英国、フィンランド、スペイン、ハンガリー、チェコ共和国、ポーランド、オーストラリア、トルコ、日本の顧客に手渡されているというから、まさに世界規模の不安を引き起こすことになる。

 1999年、ベルギーの一飼料製造者が引き起こした飼料のダイオキシン汚染は、たちまちたちまちヨーロッパ中の鶏肉、卵、豚肉の安全性をめぐるパニックを引き起こした。この飼料成分はヨーロッパ中に流通しており、農場から食卓までの食品供給経路は複雑化し・ますます長く伸びているから、どこで、どんな食品が、どれほどの汚染を受けるか知ることができない。そうなれば、すべてを疑うしかない。この事件は、狂牛病や遺伝子組み換え(GM)作物の導入とともに、トレーサビリティー強化など、2000年代におけるEUの食品にかかわるリスク管理措置の飛躍的強化の契機となった。EUは、グローバル化に伴いますます高まる食品安全への脅威に対抗する世界で最も強固な管理体制を築いたということができる。

 しかし、それでもグローバル化の急進展には追いつかない。域内はもとより、EU市場に輸出する域外100以上の国にも検査チームを派遣、EUの品質・安全基準を満たすようなリスク管理措置を勧告し、その実施や強化にも協力してきた。域内のみならず、海外の生産者も含むあらゆる関係者に対する教育・訓練の機会も頻繁に設けている(Training Strategy)。米国などが今大騒ぎしている抗菌剤の使用や残留に関しては、徹底した改善を求めてきた(例えば、⇒FINAL REPORT OF A MISSION CARRIED OUT IN THE PEOPLE'S REPUBLIC OF CHINA FROM 15 TO 25 SEPTEMBER 2003 IN ORDER TO EVALUATE THE CONTROLS OF RESIDUES IN LIVE ANIMALS AND ANIMAL PRODUCTS AND OF POULTRY MEAT HYGIENE,2003;ブラジルの獣医薬・農薬利用は野放し 食品残留基準も満たさない恐れーEU監視報告,06.6.30)。

 それでも、ユニペクチンが主張するとおり、このダイオキシンの起源がインドのグアー豆栽培地に撒かれた農薬だとすれば、さすがのEUもこのリスクを抑えるは直接的手段は持たない。かといって、輸入時点のグアー粉のダイオキシン検査など、誰も思いつきもしなかったし、それが普通だ。しかし、一旦それが添加物に加工され、世界中に流通を始めれば、もはや汚染食品を特定することも不可能に近い。

 米国は中国食品・薬品の安全性検査体制を強化するとともに、中国の管理体制の強化を求める。EUがとっくの昔にやってきたことだ。中国も”食品安全監督管理”の強化を急ぐ。しかし、グローバリゼーションと食品安全の問題はそんなことでは解決しない。中国ばかりに目を取られていると、世界中、国内にも転がっている重大なリスクを見落とすことになる。スイスの事件は、不正・不当行為が当然の行為となるようなグローバル食料システムそのものに手をつけないかぎり、食品安全はありえないことを改めて思い知らせる。

 ところで、ここで報道されるとおりなら、現在日本で販売されている非常に多種の食品もダイオキシンに汚染されている恐れがある。危険は低いかもしれない。しかし、トゥールガウ州の保健専門家が言うとおり、健康影響がないとも言い切れない。しかし、この問題にはマスコミは目をつぶったまま、海の向こうではリコールが始まっている製品が日本にも入り込んでいるかもしれないのに、食品安全当局も知らぬ顔だ。グローバルな”安全監督管理”体制さえできていない。

 心配なら、”アイスクリーム、和菓子、水産練り製品、ドレッシング、タレ、スープ、ソースなど幅広い食品”を食べるのはやめるしかないということか。それは食品産業の命取りだ。