米国 O157 汚染牛挽肉で2人死亡 改善進まぬ米国食肉処理の衛生管理

農業情報研究所(WAPIC)

09.11.3

 米国疾病管理予防センター(CDC)が11月2日、米国東海岸12州の28人が大腸菌0157:H7に感染したと発表した。入院した16人のうちの3人が溶血性尿毒症性症侯群と呼ばれる型の腎臓障害を発症、2人が死亡した。

 米国農務省(USDA)食品安全検査局(FSIA)は10月31日、0157:H7汚染を理由としたフェアバンク・ファームズ(ニューヨーク州)の牛挽肉製品・54万5699ポンド(248トン)のリコールを発表したが、いくつかの州の保健当局は、大部分の感染者がリコールの対象となった製品か、類似製品を消費したことを発見している。2人の死亡もこの汚染挽肉と関連している可能性が高い。

 Multistate Outbreak of E. coli O157:H7 Infections Associated with Beef from Fairbank Farms,CDC,2009.11.2
 http://www.cdc.gov/ecoli/2009/1102.html
 New York Firm Recalls Fresh Ground Beef Products Due To Possible E. coli O157:H7 Contamination,FSIS,2009.10.31
  http://www.fsis.usda.gov/News_&_Events/Recall_059_2009_Release/index.asp

 先月4日、ニューヨーク・タイムズは、O157が初めて4人の子供の死をもたらした1994年以来、食肉会社や肉販売者は、これに汚染された挽肉を販売することを禁じられてきたのに、まだ毎年、”ten of thousands”の人々が、ハンバーガーが最大の元凶であるこの病気に罹ると、食肉処理の衛生管理・検査の杜撰さが一向に改善されないことを告発する長大な記事を掲げた。アメリカ国民を震撼させたこの記事にUSDAはすばやく反応、ビルサック長官は、”このストーリーは受け入れることができないし、悲劇的でもある」、USDAはO157発生を減らすたゆまぬ努力を続けているとする声明を発表した。

 E. Coli Path Shows Flaws in Beef Inspection,The New York Times(要登録-無料),10.4
 http://www.nytimes.com/2009/10/04/health/04meat.html?ref=us
  Statement by Agriculture Secretary Tom Vilsack Regarding Recent E. Coli Story,USDA,10.5
  http://www.usda.gov/wps/portal/!ut/p/_s.7_0_A/7_0_1OB?contentidonly=true&contentid=2009/10/0491.xml

  それにもかかわらず、杜撰な衛生管理・検査に改善が見られないことは事実である。今年も、O157:H7汚染牛肉(すべて挽肉)リコールは、5月に2件、6月に1件、8月に2件、10月に今回の1件を含めて2件と、相次いでいる。その挙句の2人の死だ。

 http://www.fsis.usda.gov/FSIS_Recalls/Recall_Case_Archive/index.asp

 何故なのか。ニューヨーク・タイムズ紙の記事は、狂牛病問題に関して指摘されたと同様(米国産牛肉問題 検査・監査の不手際を政争の具とするな 真の問題は食肉産業の構造改変,06.2.1)、この杜撰さが”構造的”要因によることを示唆している。たとえば次のような指摘がある。

 「牛はしばしば、大腸菌を宿すフィードロットの糞にまみれてやってるから、皮は肉に触らないように慎重にはがさねばならない。これは、屠体外面から削ぎ取られるトリミング(くず肉)については特に重要である。工場に常駐する連邦検査官が皮の除去を監視していると想定されているが、これは多くの場合、うまくいかない可能性がある。検査官や労働者は、皮を削ぎ取る労働者は糞が肉に飛び散るのを防ぎようがないこともあり、皮を留め置く大きなクランプも時々ずり落ち、肉が糞にまみれると言っている」。

 切り分けに送る前に熱湯や乳酸で洗うが、これらのセーフガードも絶対確実とは言えない。「トリミングは加工ラインに落ちてボックスに入るが、一片ごとの検査は誰もしていない」(検査官)。

 腸を除去するときにも大腸菌汚染のリスクが大きい。しかし、半丸枝肉が屠畜場から切り分けサイドに5秒ごとに入ってくる。糞が残っていないかなどと目を凝らしていては、流れに遅れる。流れを止め、糞を取り除いていた元監視者、16年争った後に、この夏解雇された。 


  大量の大腸菌を含む糞尿にまみれたフィードロットでの肥育から猛スピードの食肉処理工程まで、問題の根源は畜産・食肉産業の構造そのものにありそうだ。簡単に解決できる問題ではない。台湾当局は、米国産骨付き肉のみならず、挽肉、一定のくず肉・加工肉製品の輸入も認めたそうである (台湾 米国産牛肉輸入規制緩和 議員は超党派で政府非難 消費者団体、台北市はボイコット宣言,09.10.27)。日本は?

  [O157も熱には弱い。加熱調理すれば大丈夫というが、調理前や調理中に他の食品に移るのは避けがたい。しかも、顕微鏡的微量を食してもえらい目にあう[2007年秋、母親が焼いたハンバーガーを食べて感染したニューヨーク・タイムズの記事が引き合いに出す女性ダンスインストラクターは、一命は何とかとりとめたものの、9週間の昏睡から覚めたとき、神経組織がやられて一生歩けない体になっていた]。遠ざけるにしくはない]