米政府 家畜識別追跡国家プログラムを「スクラップ」 「新たな柔軟な枠組み」の開発へ

農業情報研究所(WAPIC)

10.2.6

  米国農務省(USDA)が2月4日、「米国における動物病トレーザビリティの新たな柔軟なフレームワークを開発する、また動物病に対する予防・対応能力さらにを強化するいくつかの他の行動にとりかかる」と発表した。

 2003年末の狂牛病(BSE)発見を受けて2004年にブッシュ政府が創設した「国家動物識別システム」について、「数千にのぼる市民からのコメントと州・部族国家・産業団体・小規模及び有機農業代表者からの意見を受け取り、動物病に関する新たな戦略が必要に見える」と判断したということだ。

 USDA Announces New Framework for Animal Disease Traceability,USDA,10.2.4
 http://www.usda.gov/wps/portal/!ut/p/_s.7_0_A/7_0_1RD?printable=true&contentidonly=true&contentid=2010/02/0053.xml

 何のことはない、動物飼育農家や農業者の頑強な抵抗に屈し、オバマ政府が、「動物病勃発に際して当局が家畜を迅速に同定、追跡するのを助けるための国家プログラムをスクラップすることを決めた」ということだ。

 U.S.D.A. Plans to Drop Program to Trace Livestock,The New York Times,2.5
 http://www.nytimes.com/2010/02/05/business/05livestock.html?ref=business

  USDAによると、新たなフレームワークは、州境をまたいで移動する動物にのみ適用され、一層の柔軟性を提供するために州と部族国家により管理され、低コストの技術の使用を奨励し、連邦の規制と完全なルールメイキングプロセスを通じて透明なやり方で実施されるのだそうである。

 ブッシュ時代に創られた「国家動物識別システム」への牧畜業者や農民の参加は自主的だったが、目標は、あらゆる動物と動物群(豚と鶏の場合)にデータベースに記録される識別番号を付することにあった。それによって動物の移動がトレースされ、病気が勃発したり、病気の動物が発見されたとき、同じ病原に曝された他の動物の居場所を迅速に突き止めることができる。

 ところが、このようなシステムは、当初から動物飼育農家や農業者、特に牛飼育農家の激しい批判に直面した。識別装具のコストが高い、動物の移動の報告という新しい仕事が加わるなどで米国畜産の競争力が削がれるというわけである。連邦政府はこのシステムに1億4200万ドル(127億円)を注ぎ込んだにもかかわらず、 参加しているのは動物飼育農家の40%にすぎない。

 こうして、新政権の下で「新たな柔軟なシステム」の模索が始まっわけだ。ビルサック農務長官は、「この新たなアプローチの主要な目標の一つは、動物病トレーサビリティのフレームワークを形作り、実施するための協調的プロセスを建設することだ」と言う。しかし、それがトレーサビリティの強化につながるとは誰も保証できない。

 意味あるトレーサビリティは完全な(すべての動物の)トレーサビリティでなければならず、それは、狂牛病に直面してEUや日本が牛について作り上げたような強制システムでなければならない。オバマ政府はなぜその方向に動かないのか。オバマ政府のUSDAも、アグリビジネス産業省と言われたブッシュ時代のUSDAと同様(USDAは「アグリビジネス産業省」、デタラメな米国BSE対策の根源 新レポート,04.7.26)、安全軽視の体質は一向に変わらないのだろうか。

 牛の個体識別・追跡システムは、あらゆる狂牛病対策の基盤である。米国の狂牛病対策への信頼性もますます揺らぐことになるだろう。