農業情報研究所
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WTO農業交渉における途上国の要求と先進国・ハービンソン案の比較
農業情報研究所(WAPIC)
03.3.25
WTO農業交渉のモダリティーの月末までの決定を目指し、今日から大詰めの会合が開かれる。わが国では、先進国間の対立の厳しさのみが強調されているが、ドーハ「開発」ラウンドの主役は、本来、途上国であるはずである。このラウンドでは、対立する先進国は、途上国の支持を得ることなく、自国に有利な結果を得ることはできないだろう。それにもかかわらず、途上国と先進国の主張の開きは余りに大きい。議長のモダリティー案はもちろん、途上国の支持を取り付けようと早くから躍起になり、日本も同調することになったEUの提案でさえ、途上国の要求からはかけ離れている。確かに途上国への配慮が見られるが、具体性を欠いている。展望を切り開くためには何が必要なのか。それを考える材料として、途上国の要求と先進国・議長案を比較対照してみた。
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途上国案 |
EU案 |
米国案 |
日本案 |
議長(ハービンソン)案 |
食糧安全保障のための措置 |
(関税) UR[ii] 約束実施レベルに維持、食糧安全保障にかかわる基礎食糧と一定基準[iii]にその他の品目については、それ以上に引き上げることもできる。 (関税率割当) (国家貿易企業) |
(関税) 途上国については、食糧安全保障とその他の多面的機能関心事項に関する正当な目標を達成するために必要であるならば、実質的により低い関税引き下げ。 (関税率割当) 言及なし。 (特別セーフガード) |
関税、関税率割当につき、先進国・途上国を区別せず。 |
(国境措置とその適用に関し)途上国については「食糧安全保障を確保するために大幅な柔軟性を付与する」。 |
(関税) 途上国については、食糧安全保障等の観点から指定される戦略品目以外の品目について、単純平均により10年間で、120%以上の関税:平均40%、最低30%、60-120%の関税:平均35%、最低25%、20-60%の関税:平均30%、最低20%、20%以下の関税:平均25%、最低15%削減する。 (関税率割当) 途上国については、戦略品目は関税割当量の拡大を免除、その他品目は最終譲許の関税割当量が国内消費量の6.6%に満たない場合には6.6%まで拡大、枠内税率削減は免除。 (特別セーフガード) 途上国については関税削減を行なった戦略品目に適用できる。 |
特別セーフガード |
すべての途上国に、価格急落と輸入急増の場合にすべての輸入先からの輸入品に一時的国境措置を取ることを許す新特別セーフガード。 これは、すべてのWTO加盟国に非差別的に適用されるが、南南貿易への影響を避けるために、他の途上国には一定の適用の条件を定める。 対象品目は現行の関税化品目に限定せず、措置のタイプとしては、現在の関税引き上げだけでなく、数量制限も可能にする[iv]。 |
特別セーフガード措置は現行制度を維持。途上国については上記のとおり。 |
一律に廃止。 |
同上。 |
先進国については、関税削減実施終了の2年後に適用を停止、途上国については上記のとおり。 |
補助金 |
輸出補助金廃止と国内助成の大幅削減。 国内助成(グリーン、イエロー、ブルーすべてを含む)を農業総生産額の10%までに制限[v]。 |
輸出補助金は、先進国・途上国区別なく45%削減。 グリーン助成は、途上国に開発目的での農業部門支持の可能性を与える。ブルー助成は維持し、イエロー助成は55%削減する。 先進国について生産額の5%未満の助成は削減対象助成に計算しないとする現行条項による「デミニミス」は廃止。 |
輸出補助金は、先進国・途上国区別なく、5年の間に毎年等率で削減したのちに廃止。 グリーン助成は、基本的基準を維持し、途上国には資源が貧しく・所得が低い農民に向けた特別支持プログラム。ブルー助成は、削減対象補助金とし、イエロー助成は農業生産価額の5%に制限。 |
(輸出規律・国家貿易について)途上国の義務の免除・緩和。 国内助成については、グリーン政策を改善、ブルー助成は維持する。途上国には国内消費向け食糧生産に必要な助成に影響を与えないように柔軟性付与。 |
輸出補助金は、先進国は段階的に削減、6-10年で廃止し、途上国は11-13年で廃止。 国内助成については、グリーン助成は維持、ブルー助成は50%削減、イエロー助成は60%削減するが、途上国につてはグリーン助成は拡大、ブルー助成、イエロー助成はそれぞれ33%、40%削減する。 「デミニミス」は5年間で0.5%ずつ削減するが、途上国は現行の10%を維持。 |
均衡回復[vi] |
先進国における補助金のレベルと途上国の関税保護の構造的関連付け。このリバランシング措置は、輸入途上国に補助された輸入品への追加関税(補助相当額の)を課す柔軟性を与える。 |
言及なし。 |
言及なし。 |
言及なし。 |
言及なし。 |
[i] フィリピン・インドネシアの2002年11月20日のWTO農業委員会特別会期での提案(WTO document,JOB(02)/184)。食糧安全保障や農村開発への関心から一定農産物の関税削減を免除するという要求は、その他の途上国(アフリカ・グループ、中米・カリブ諸国、インド、パキスタン、スリランカ)からも出されている。
[ii] ウルグアイ・ラウンド。
[iii] 特定商品の生産に従事する人口の割合及び国の全農業付加価値への特定商品の寄与度。
[iv] キューバ、ドミニカ、グレナダ、ホンジュラス、ニカラグア、ナイジェリア、パキスタン、スリランカ、ベネズエラの提案(WTO document,JOB(02)/177、WTO document,JOB(02)/Rev.1)
[v] ドミニカ、ホンジュラス、ニカラグア、パキスタン、スリランカ、ベネズエラの提案(WTO document,JOB(02)/174)
[vi] フィリピン提案(WTO document,JOB(02)/111)、ドミニカ・ホンジュラス・ニカラグア・ナイジェリア・パキスタン・スリランカ・ベネズエラ提案(WTO document,JOB(02)/174)、アルゼンチン・ボリビア・コスタリカ・エクアドル・パラグアイ・マレーシア・フィリピン・タイ提案(WTO document,JOB(02)/172)