農業情報研究所

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EUの穀物輸入制度変更、貿易戦争の可能性

農業情報研究所(WAPIC)

02.9.20

 Financial Times紙(EU set for US dispute on grain,9.18,p.3)がEU消息筋の情報として伝えるところによると、欧州委員会は軟質小麦とデュラム小麦、合わせて230万トンの関税割当を提案し、軟質小麦にはトン当り42ユーロ(41ドル)、デュラム小麦にはトン当り17ユーロの関税を課するという。米国政府との協議のために、特使が米国に向かった。EUは米国の間に新たな貿易紛争に頭を突っ込むことになりそうである。

 EUの輸入制度変更は、米国市場相場に基づいて計算される現在の関税計算システムでは、最近、穀物の輸出能力を急速に拡大したウクライナやロシアからの安価な輸入品に対抗できなくなったことを直接の契機としている(EU:穀物輸入関税制度変更交渉を提案、米国が反発,02.7.3)。これらの国々からの小麦輸入増大は、既にEU農民の深刻な脅威になりつつある。従って、この制度変更は、米国だけでなく、これら諸国との貿易紛争も激化させるであろう。

 9月19日付けの「モスクワ・タイムズ」は、ロイターの情報として、もしこの変更が実施されれば、ウクライナとロシアとの間に「貿易戦争」が生じるだろうと報じている(EU Quotas Raise Trade War Threat, TheMoscowTimes.com ,9.19)。同紙によれば、EUの輸入が前年に比べて3倍増の1000万トンとなった前期、ロシアとウクライナはEU諸国におよそ500万トンの穀物を輸出した。EUが考えている割当量230万トンは1998−2000年の平均輸入量であり、EUがこの計算に2001−02年を含めていないことは、ロシアとウクライナがこの割当量のほんの僅かな部分しか獲得できないことを意味するという。ウクライナの有力農業コンサルタントは、「この提案はEUが我々をEU市場から締め出そう計画していることを示す」という。

 今年は、北米、オーストラリアなど主要小麦供給国が厳しい干ばつで供給能力を減らす一方、多くのヨーロッパ諸国の作物も8月の洪水被害に遭っている。2002−03年には、ウクライナは1200万トン、ロシア800万トンの穀物輸出を計画している。EUの制度変更は、実施されても2003年からであろうから、今シーズンはEU諸国にも輸出できるであろう。しかし、その後のEUへの輸出は、高い関税率によりゼロになる恐れもある。ロシアは、今年、衛生上の理由という口実で、米国からの鶏肉輸入を禁止、米国との深刻な貿易紛争を経験した。アナリストは、EUの制度変更はEUからの食肉・鶏肉輸入禁止という劇的な措置の口実になると見ている。

 生産者の困難を考えれば、EUも、ウクライナ・ロシアも責めるわけにはいかない。しかし、世界の農産物貿易システム、輸出依存の農業生産システムは、どこか根本的に狂っているとしか言いようがない。