農業情報研究所

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日本の牛肉輸入緊急措置発動の見通しに豪州が反発

農業情報研究所(WAPIC)

03.1.21

 来年度、牛肉輸入に関する緊急措置が発動される可能性が高まっている。この緊急措置は、ウルグアイ・ラウンドにおける主要輸出国との交渉により合意されたものであり(WTO協定そのものではない)、当該年度の四半期の輸入量が前年同期比で17%以上増えると、実行税率38.5%を譲許税率50%に自動的に引き上げるのを認めるものである。

 狂牛病(BSE)問題による消費減退のために、昨年4ー6月の牛肉輸入量は、前年同期に比べて40%の大幅減少を記録した。この数字を基準とすれば、その後の消費回復を受けて輸入が例年並みに増加しているから、来年度第一四半期(今年4ー6月)の輸入量は、緊急措置発動基準を上回ると予想される。この場合、8月1日から来年4月までのこの措置の実施が予想される。しかし、前年の輸入減少がBSEという特別の事態から生じたものであるとすれば、この措置の自動的発動は関係者の疑問を掻き立てよう。15日付の日本経済新聞(「牛肉、消費回復に暗雲」)は、この措置の発動によってコストが膨らむが末端価格に転嫁が不可能な外食産業や量販店の戸惑い、再び消費が冷え込むことに対する生産農家の「中長期的」不安などを伝え、輸出国の米国やカナダも制度適用の見直しを要望しているが、農水相は「ルールはルール」と繰り返すと報じている。

 このような措置の発動は、記録的な旱魃と飼料価格高騰で既に被害をこうむっている60億ドル規模のオーストラリア牛肉産業にさらなる打撃を与えることになろう。16日付のThe Australian Financial Review 紙(Japan tariff hits beef exports)によれば、業界からは、関税増加の権利は正常な条件のもとでの輸入急増から日本の生産者を保護するためのものであると批判の声があがっている。また、対外貿易相、農相を含む有力閣僚がこの措置の適用は、輸出国と日本の牛肉市場回復の両方に打撃を与えるとして、免除を求める書簡を日本政府に送ったという。オーストラリア官僚は、関連条項は日本がそのような関税を適用「できる(may)」としているだけであり、日本の関税制度をカバーする法令は各財政年度の初めに導入されるものであり、修正可能であることにも注意を促がしている。

 牛肉に対する消費者の信頼と牛肉消費が漸く回復軌道に乗り始めた矢先でのこの措置の発動は、「ルール」とはいえ、あらゆる側面で利益どころか、有害な結果を生む可能性さえ否定できない。WTO農業交渉で農業貿易の根本的改革を要求する米国やオーストラリアから何らかの譲歩を引き出すためにも、このような問題で波風立てることが得策とも思えない。この緊急措置は、WTO協定がウルグアイ・ラウンド交渉での「関税化品目」に対して認めた「特別セーフガード」措置とは別のものであるが、その主旨には重なるところがある。WTO交渉では、米国やオーストラリアは、この「特別セーフガード」の廃止を求めており、日本ほか僅かな国がその存続ないし強化を望んでいるにすぎない。この問題が日本の主張への風当りを一層強めることにならなければと思う。