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フランス:シラク大統領、アフリカ向け輸出補助の一時停止を提案

農業情報研究所(WAPIC)

03.2.24

 米英による対イラク開戦への動きが急迫するなか、21日、パリで開かれたフランス・アフリカ・サミットの席上で、シラク首相の爆弾発言が飛び出した。アフリカへの農産物輸出補助の一時停止を目下のWTO農業交渉で提案すべきと言うのである。これは、従来のフランスの立場と完全に衝突する。フランスは、世界中で高まる農産物輸出補助金批判に対し、それが途上国農業を害することはないと、頑強に補助金維持を主張してきた。フランスは、米国等が多用する輸出信用や食糧援助にも同等な規律を課すことを条件に輸出補助金を45%削減するというEUのWTO農業交渉モダリティ提案はしぶしぶ了承したが、これを含む提案内容を担保することになる共通農業政策改革案には強行に反対を続けている。この国の大統領が、このような援助は途上国に有害であるというだけでなく、「殺人的」だとさえ言い、輸出補助金と同等な効果をもつ他の輸出補助も同時に停止することを条件にとはいえ、そのモラトリアムを提案したことは驚きに値する。これは、EUにとっても寝耳に水の発言で、欧州委員会も戸惑うほかない。

 このサミットは、フランスが旧植民地以外の国への影響力も強め、直接的にはアフリカ諸国を対イラク開戦反対というフランスの立場に引きつけることを狙っていた。EUはアフリカの「非民主的」統治の象徴となったジンバブエの要人へのビザ発給を停止しており、ことにイギリスは、ムガベ・ジンバブエ大統領のこのサミットへの招聘に強く反対していた。しかし、そうなればサミットをボイコットするという多くのアフリカ諸国の圧力もあり、大統領は、こうした反対を押し切ってムガベ氏を招いた。シラク大統領のこのサミットへの思い入れは、それほど強烈なものであった。それが今回の発言につながったのであろう。

 大統領の提案には、このモラトリアムのほか、アフリカに「特別で、かつ特権的な貿易待遇」を与えること、棉、カカオ、コーヒーのような一次産品の価格支持が含まれる。これらは、WTOドーハ・ラウンドでの採択を目指し、EU諸国に、次いで6月のエヴィアンでのG8会合に提出されるという。そうなれば、フランスは補助金削減を目指す欧州委員会の後に整列することになる。共通農業政策の抜本的改革を求めるイギリスにとっても歓迎すべき提案である。しかし、提案は今後詳細に確認されねばならないであろう。Financial Times紙によれば、EUのフランツ・フィシュラー農業担当委員のスポークスマンは、「このプランに関する一層の詳細を興味をもって待っている。今のところ、多くのことが不明確」と言う。この提案が従来のフランスの基本的立場を根本的に変えるものなのかどうか、評価はしばらく待たねばならないようだ。

 関連報道・論評
 
Surprise at Chirac's farm trade about-turn,FT.com,2.22
 Chrac se pose en sauveur de l'agriculture africaine,Libelation,2.21
 France-Afrique agricle,Le Monde,2.22
 Chirac Pledges French Support for African Prosperity,The New York Times,2.22

 関連情報(農業情報研究所=WAPIC)
 
EU:欧州委員会、WTO農業交渉に向けて提案,02.12.19
 
EU、欧州委員会のWTO農業交渉提案を承認,03.1.28