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インド、中国、ブラジル等、WTO農業交渉で新提案

農業情報研究所WAPIC)

03.8.21

 8月13日、米国とEUは、WTO農業交渉の行き詰まりをカンクン閣僚会合で打開すべく、交渉の枠組みに関する共同提案を行なった。ウルグアイ・ラウンドでは、米国とEUの間の合意が交渉妥結の決め手となった。同様に、この妥協さえあれば、交渉は成功に向けて動き出すという思い込みが両者ともにあるようだ。しかし、これは”思い上がり”にすぎないのではないかと感じてきた。インドは、いち早く米欧妥協案に強硬な反対を表明した。インドは途上国中の大国として途上国への影響力は大きいが、それだけならばウルグアイ・ラウンドのときと同じである。しかし、今回は違う。インドは中国という巨大な勢力のバック・アップが保証されていたからである。今回も米国とEUの思惑でことが運ばれると見るとすれば、余りに事態の変化に鈍感ではないか、この妥協案は今後の交渉の土台にもならないのではないか、そう考えて、マスコミのさも重大気な報道にもかかわらず、これを取り上げるのは控えてきた。案の定、20日、インドとメキシコは米欧案に対抗する枠組みを提案したが、この提案には、中国ばかりか、ケアンズ・グループの有力国も含む他の13の途上国―ブラジル、アルゼンチン、ボリビア、チリ、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、ペルー、タイ、南アフリカ、グアテマラ、パラグアイ、フィリピン―もサインしている。米欧案がそのままたたき台になるなどと考えるのは、もはや幻想にすぎない。

 提案は交渉の主要分野をほとんどカバーしている。輸出補助金について、米欧案は、途上国の特別の利益にかかわる品目については[ ]年で撤廃するとしているが、インド案では早期の撤廃が提案されている。国内助成では、「青」の政策について、米欧案は新しい枠組みを提案しているが、インド案は廃止を要求、米欧案に言及がない「緑」の政策についても、一定のものには上限の設定、厳格な規律を要求している。作物保険や災害援助のための直接支払いに上限を設けることが特別に言及されている。「黄」の政策の削減の大幅削減は米欧案と同じであるが、これは品目特定的に行なわれねばならない。特定の商品に対する補助の削減を免れる逃げ道を塞ぐためである。また、助成が輸出の一定の比率に達するときには、国内助成を廃止することも提案している。

 関税に関しては、米欧はウルグアイ・ラウンド方式とスイス・フォーミュラを混ぜ合わせた削減方式を提案し、インド案もこの点に変わりはないが、このミックス方式は先進国にのみ適用し、途上国は平均での・最低限の削減に従うのみ、高率関税の大幅削減を課すようないかなる方式にも従わない。センシティブな品目に関する関税削減を関税率割当によるアクセス拡大で償うといった、恐らくは割当拡大につながる米欧案の微妙な言い回しは、インド案には含まれない。しかし、先進国については、国内消費量に対する比率を拡大し、割当内関税率ゼロとする関税割当を要求している。途上国については、割当拡大や割当内関税率削減は要求されない。さらに、インド案は、一定のセンシティブな品目をフォーミュラ方式関税削減の対象から除外、交渉に委ねるべき特別品目とすることも提案している。食糧純輸出国である途上国には特別かつ異なる待遇に関する異なるルールや規律を求めるというブラジル等を狙った米欧案の条項も、インド案は落とした。

 国内助成の大幅削減につながり、途上国への市場アクセスの大幅拡大が望めないこの提案は、米国が到底飲めるものではないだろう。また、一般理事会議長や農業交渉議長がこれを取り上げれば、交渉のたたき台となるのは米欧案だけではなくなる。そうなれば、交渉はますます混迷を深める。といって、これだけの強大勢力の共同提案が無視されれば、交渉決裂は不可避だ。WTOの権威は失墜、自由貿易協定(FTA)を武器とする米国の一方的攻勢が世界を席捲する。世界は破滅へのコース、イラク戦争への道と同じ道を突進することになる。真に危機的な状況だ。

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 Brazil, India and China turn up the heat on subsidies,Guardian,8.21
 Farmers want moratorium on agricultural imports,Inq7.net(Fhillipine),8.21
 Agricultural Subsidies to Top Agenda at WTO Talks,BuaNews(South Africa),8.19