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EU、地理的表示のWTO保護要求産品リストを漸く完成

農業情報研究所WAPIC)

03.8.29

 既に何度か報じたように、EUは、現在進行中のWTO貿易交渉で、「地理的表示」の国際的保護の強化を提案している。知的所有権の貿易関連側面(TRIPs)協定をめぐる交渉では、外国における同名の「商標」登録などにより、本来の世評が高く・優れた産品(例えば、イタリアの「パルマ・ハム」、カナダでは、同国企業による「パルマ・ハム」の商標登録がある)が不利益を蒙るのを防ぐために、地理的表示の国際登録簿の確立を提案している。同じTRIPs交渉では、既に原則的に合意されているワインとスピリッツの地理的表示の国際的保護を他の産品にも拡張することも提案して、米国等と鋭く対立している。また、農業交渉においては、世界中で乱用されているEUの地理的表示を奪還することも目指している。世界市場における安売り競争がますます激しくなるなか、これによる地域産品の保護は、とりわけ条件不利な農村地域の疲弊を防ぐために不可欠と見ているからだ。

 ところが、交渉で国際的保護を要求する産品のリスト作りは、EU諸国の激しい対立で難航してきた。内部でこのように対立しているのでは、国際的合意は一層難しい。しかし、対立の激しさは、文句無しの合意を取り付けるために要求産品を厳しく絞り込もうとした結果でもある。このリストを提出することになっている9月10日から始まるカンクンでのWTO閣僚会合が迫るなか、28日になって、ようやく内部の合意ができた。合意されたリストには、22種のワイン・スピリッツ、13種のチーズ(アジア―ゴ、コンテ、フェタ、フォンティーナ、ゴルゴンゾラ、グラーナ・パダーノ、マンチャゴ、モッツァレラ・ディ・ブーファラ・カンパーナ、パルメジャ−ノ・レッジャーノ、ペコリーノ・ロマーノ、サン・ジョルゼ、ルプロシオン、ロックフォール)、3種のハム(パルマ、カンタニエール、トスカーノ)、ソーセージ(モルタデッラ・ボローニャ)・サフラン(ラ・マンチャ)・菓子(ヒホナ)の各1種が含まれる。世界的にも著名なものばかりで、厳選ぶりが伺われる。ちなみに、EUが認めた地理的表示産品は、現在、総数600を越えている。

 そうではあっても、米国・カナダや有力輸出国の多くが、保護の対象をワイン・スピリッツ以外の食品に拡張することに猛反対している。EUは、インドのダージリン・ティー、スリランカのセイロン・ティー、グアテマラのアンティグア・コーヒー、モロッコのアルガン・オイル、スイスのエティバ・チーズ等を要求リストに載せることを後押し、インド、タイ、ケニヤ、スイス、トルコ、ポーランド、ハンガリーなどの支持を取り付けている。圧倒的に不利な状況には変わりがないが、この問題をめぐる交渉が本格化すれば、多くの途上国を一気に味方につけることも考えられ、交渉の行方は未だ予断できない。

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