WTO農業交渉、EUとG20が再開で接近―G20会合

農業情報研究所(WAPIC)

03.12.13

 12日、ブラジリアで、G20グループとEUの通商担当委員・パスカル・ラミーが「対話は生産的、建設的だった」とする共同声明を発表した。

 G20グループは、カンクンWTO会合で先進国に共同して対抗するために結成された途上国グループだが、いくつかのラテン・アメリカ諸国が離脱、今は18ヵ国で構成されている。しかし、9月20日に結成されことから、今後、国の数でなく、結成された日付からG20グループと呼ぶという。このグループが15日に迫ったWTOドーハ・ラウンド再開を目指すジュネーブ会合での共同の立場を練り上げるための会合を開いた。会合には、中国、インド、南アフリカ、エジプトなどの元々のG20グループ諸国のほか、新たなアフリカの三つメンバー(ナイジェリア、ジンバブエ、タンザニア)、グループを離脱したエクアドルを加えた19ヵ国が参加した。この会合にはスパチャイWTO事務局長が招かれ、南米共同市場(メルコスル)との自由貿易協定(FTA)、ドーハ・ラウンドについて協議するために訪れていたパスカル・ラミー、フランス通商大臣も参加した。米国通商代表・ロバート・ゼーリックも招かれたが、出席しなかった。

 共同声明はこの会合の結果を受けたものだ。それは、両者が「プラグマチック」に立場を開陳、来年早期にWTO交渉を強める必要性で合意したとも述べる。一頃の両者の激突ぶりからすれば、考えられない展開だ。ラミー委員の説得がある程度実り始めたようだ。

 この日、ブラジルのルーラ大統領は、既に始めている南アフリカやインドとのFTA設立交渉を拡大、G20ほかの途上国を包含する自由貿易協定を提唱したが、G20グループの意義を否定し続けてきたラミー委員は、このようなブロックが「ポジティブ」なものだと認めた。EUは、共通農業政策(CAP)の改革によって大部分の農業補助金が貿易歪曲的でなくなるのだから、農業交渉でEUが集中攻撃されるの不当だと懸命に訴えてきたが、途上国はまったく耳を貸さなかった。しかし、ラミー委員は、この点でも攻撃の鉾先を米国に転換させるのに成功したようだ。

 AFPによれば、アモリム・ブラジル外相は、G20のEUとの接近は、EUとの論争に役立つこの方式の有効性を示す、すべての貿易パートナーとの論議にも拡張できると語ったという。この貿易パートナーとは、特に米国のことだ。会合に出席したフィリピン大使は、「ラミーは、G20の問題はEUではなく他の国だ」、何もしようとしない米国をほのめかしてこう語ったと言う。フィリピンからの別の報道によれば、ラミー委員は、農業補助金に関しては、最大の問題はEUではなく米国、市場アクセスに関してより問題なのは日本だとも語ったといいう。ラミー委員は、米国に一層譲歩させるために、G20が米国に圧力をかけるのを助けると語ったという報道もある。

 EUは多角的交渉を最優先する立場を堅持している。多角的交渉を軽視、すっかり二国間・地域交渉にのめりこんでいる米国と日本との対決姿勢さえ見せ始めたようだ。日本とのFTA締結に熱心な姿勢を見せるタイやフィリピンも含め、G20諸国にも、途上国に最大の利益をもたらすのは多角的交渉だという認識が強まっている。

 G20とEUのこのような接近は、必ずしも農業交渉における立場の接近を示すものではない。G20は、この会合でも、ドーハ・ラウンドを復活させるために、先進国の農業補助金削減を要求した。他の国が同様な行動を取れば輸出補助金も段階的に撤廃するというEUの提案も不十分だとした。ラミー委員は相互が柔軟になることを要求、今や技術レベルの調整に入るべきだと、G20に具体的提案を要請した。G20の中には、技術レベルで交渉をまとめる道が開けたという代表も現われた。その際には、G20は、カンクンでは議論されなかったメキシコ・デルベス外相の提案を基礎に交渉を再開する可能性もあるという。

 カンクン会合の崩壊により戦略を見直す機会を与えられた日本は、FTAに熱中してこの機会を逃そうとしている。来年早期の閣僚会合が実現するとすれば、対応の用意はあるのだろうか。

 参照ニュース
 Brazil Calls for Free Trade Within G20,Inter Press,12.12.
 Rapprochement entre les pays émergents du G20 et l'Union européenne,AFP,12.12
 Defiant G20 calls for better farm trade offer,FT.com-World,12.12.
 Developing nations face pressure to end WTO standoff,Inq7.net,12.12.
 Brazil seeks to forge common stance for trade talks,FT.com-World,12.11.

農業情報研究所(WAPIC)

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