EU、すべての輸出補助金撤廃を議論の用意、WTO農業交渉に弾みとなるか

農業情報研究所(WAPIC)

04.3.24

 カンクン閣僚会合の決裂以来初の公式WTO農業交渉となる農業委員会特別会合が22日にジュネーブで再開された。

 交渉進展の最大の障害の一つは先進国の輸出補助金だが、EUの農業担当フィシュラー委員が記者会見で、輸出補助金の全面廃止を議論する用意があると言明した。EUは従来、途上国の関心品目に限っての輸出補助金廃止を提案してきた。だが、AFP通信によると(L'UE prête à discuter de la fin des subventions sur tous produits,3.22)、フィシュラー委員は、EUが昨年来、途上国に対して補助金廃止を望む特別品目のリストの提出を求めていることに言及、「もし”すべての産品”というなら、我々はそれについても議論せねばならない」と語ったという。ただし、米国の食糧援助や輸出信用などの他の形態の輸出援助も並行して討議されることの保証が条件だとした。

 先月、米国のゼーリック通商代表は、輸出信用の補助金的要素を排除することには合意できると語っている。フィシュラー委員は、「輸出信用の補助金的要素」か何を意味するのか米国と議論しなければならないと語った。この議論の行方次第はでは、交渉が大きく前進する可能性も出てきた。

 補助金無しの輸出国グループ(ケアンズ・グループ)は、依然として先進国の国内助成も含めた補助金の撤廃または大幅削減を求めているが、ブラジルを中心とする南米輸出国には、市場アクセスを最優先、国内助成については現実的対応を探る動きもあるようだ。

 これはWTO交渉とは別のEU・メルコスル(南米共同市場)自由貿易協定(FTA)交渉についての話だが、フィナンシャル・タイムズ紙によると(Mercosur hopes rise of EU deal on free trade,3.22,p.3)、アルゼンチンの交渉主任で、メルコスルのコーディネーターでもあるレドラド氏は、もはや補助金問題は追及しない、代わりに市場アクセスに集中すると語ったという。彼は、「これは[補助金に関する]マインドを変えたのではないが、一層実際的、現実的になったということだ」と述べている。

 これは、米国との米州自由貿易協定(FTAA)の進展が見込めない状況のなかで、EUとのFTA交渉のできるかぎり早い妥結を求められての対応であろう。だが、メルコスルの目下の最優先課題が、米国を凌ぐ「世界のパンカゴ」にまで成長してきたブラジル・アルゼンチン農業の市場アクセスの拡大であることは、間違いない事実であろう。EUの強い要求であり、メルコスルが強く抵抗してきたサービス市場開放、知的財産権法の厳格な執行、投資保護を約束する代わりに、EUには大部分の品目の関税撤廃、農産品などの「センシティブ」な品目では割当の設定を要求するという。

 この現実主義路線がWTO交渉にも反映しないとは限らない。輸出補助金・援助の全面撤廃が視野に入れば、先進国の輸出援助で狭められている世界市場アクセスの拡大への展望が開かれるだろう。事実、ブラジルのアモリン外相も、米国が国内助成の削減に関して柔軟になってきたこと、EUが輸出補助金の撤廃に動く可能性が出てきたことを評価、ドーハ・ラウンドは来年中に終えることができるかもしれないと言う(Brazil raises hopes of Doha deal next year,Financial Times,3.19,p.6)。フィナンシャル・タイムズ紙に対し、彼は、補助金で合意ができれば、日本その他の保護主義グループが市場を開放すべきという要求も和らげる準備がある、「私は、最も実質的なことで進展があれば、すべての柱で最大限綱領主義者であるには及ばない」、ただし、日本が農産物市場開放を拒否すれば、他の分野で譲歩せねばならないと語ったという。

 そうなれば、この夏には農業交渉の大枠合意も可能になるかもしれない。ただし、そのためには、米国が国内助成・輸出援助の削減・撤廃で具体的にどこまで踏み見込むかがはっきりせねばならない。秋に選挙を控えた米国にそれができるかどうか、依然として不透明だ。また、農産物関税引き下げの緩和の代償に、日本が投資など新分野で譲歩する用意があるかどうかも不透明だ。

農業情報研究所(WAPIC)

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