WTOパネル中間報告、米国綿花補助金はWTO違反―報道は加熱気味だが

農業情報研究所(WAPIC)

04.4.29

 米国を中心とするメディアが、99年から02年までの米国綿花生産者補助金をWTOルール違反とするWTO紛争処理委員会(パネル)中間報告について大々的に報じている。この中間報告は、これら補助金が米国綿花の輸出を促進、世界価格を押し下げ、ブラジルその他の綿花生産者に多大な損害を与えているというブラジルの訴えを認めたものという。途上国を始め、EUも含む多くの関係国がこれを歓迎している。米国政府はWTO違反はないと主張しているが、メディアは、2ヵ月以内に出される最終報告でも結論が変わらねば、綿花のみならず、他の商品にも同様な補助金を大量に与える米国の補助金農政全体の正当性が問われ、秋の選挙を前に政府が重大な困難に直面すると警告する。

 メディアは、影響は米国だけにとどまらないとも指摘する。ブラジルの提訴の成功は、先進国の補助金をターゲットとする提訴を次々と誘発、WTO農業交渉における途上国やオーストラリアを盟主とする輸出国グループ(ケアンズ・グループ)の要求とともに、EUや日本なども含めた先進国の補助金農政を大きく揺るがせることにもつながる可能性があるというのである。このように、メディアは、今回の中間報告が極めて重大な意味を持つと強調している。

 だが、今回の報告の意義をどうとらえるべきか、筆者には判断材料が少なすぎる。WTO自体や米国政府などからの中間報告に関する公式発表は一切なく、メディアの仰々しい大量の報道をいくら読んでも、米国の綿花補助金の何が問題とされたのかはまったく分からない。ただただ、米国綿花補助金がWTO違反とされたというだけである。

 米国の綿花補助金には多種多様なものがある。99年から02年までに払われた補助金と言えば、太宗は、96年農業法により導入され、漸次減らされ、最終的には廃止されるはずであった過去の実績を基準とする直接支払い(これは貿易歪曲的でない「グリーン」補助金とされてきた)、02年農業法でこれを継続・永久化した固定支払い(基準の更新を認めた)、価格低下に対抗して98年から導入された作物特定的でない「緊急援助」(市場損失支払い)、その毎年の支払いを保証した02年農業法による「カウンター・サイクル」支払い、市場価格がローンレートを下回った場合に差額を支払う「ローンレート不足払い」の国内助成と、輸出信用保証である。

 このうち、ローンレート不足払いは米国政府自らが貿易歪曲的と認め、WTO削減約束に組み入れてきたものだから、今回これが問題になったとは考えられない。それがWTO約束を超過しているわけではない。とすれば、輸出信用保証の貿易歪曲的側面、米国が「グリーン」と主張している他の二つ、あるいは一つの国内助成が問題にされたと考えられよう。これらが「グリーン」補助金ではない可能性があることは、EUやオーストラリアを始め、多くの国が指摘してきた。

 だが、これらのどれが、どのような理由で「グリーン」でないのか、パネルが正式にどう判断したのかは全然わからない。だから、米国の今後の対応の方向も分からなければ、改革によって従来の作物特定的直接援助を作物横断的なデカップリング援助(単一農場支払い)にシフトさせたEUの政策がどう評価されることになるのかも分からない。

 こういうわけで、今回の報告の意義を判断するには時期が早すぎる。米国にとっては事が重大なのは確かだが、我々は最終報告が発表されるまで、冷静に見守るのが妥当な態度のように思われる。

 関連ニュース・論調
 W.T.O. Rules Against U.S. on cotton Subsidies,The New York Times,4.27
 WTO Rules Against Cotton Subsidies,Washington Post,4.27
 Cotton ruling could affect farm subsidies,FT.com,4.27
 Farmers to gain in trade blow to US,The Age,4.28
 Lawmakers Voice Doom and Gloom on W.T.O. Ruling,The New York Times,4.28
 Those Ileegal Farm Subsidies,Washington Post,4.28
 U.S. Farmers Get a Lesson In Global Trade,Washington Post,4.28

農業情報研究所(WAPIC)

HOME グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境 ニュースと論調