EU砂糖保証価格引き下げ案にACP諸国が反発、EU諸国並みの補償要求

農業情報研究所(WAPIC)

04.6.26

 昨日報じたように(農業補助金:EUが笛吹き、WTO、OECDが批判 対立激化でWTO農業交渉合意は困難?,04.6.25)、フィナンシャル・タイムズ紙がフィシュラー委員のEU砂糖制度改革案を暴露した(EU to consider sugar subsidy reform,Financial Times,6.24,p.7)。そのなかの保証価格引き下げ案に、アフリカ・カリブ・太平洋(ACP)諸国が激しい反発を表明している。

 EUは昨年、大部分の部門における農業者直接援助を生産から切り離し(デカップル)、基本的には過去の実績に基づく作物横断的な単一農場支払いに置き換えることを主眼とする共通農業政策(CAP)の抜本的改革を決定した。その際積み残されたタバコ・オリーブ油・ワタ・ホップの部門の同様な方向での改革も今年4月に決定した。残されたのが砂糖部門である。

 砂糖部門は、EU諸国にとっても、EUが輸入特恵を与えているACP諸国(とインド)にとっても、極めて微妙で、複雑な部門である。その手厚い保護制度の改革は非常に困難で、1968年のCAP始動以来の古色蒼然たる制度が残されてきた。この制度は競争を欠き、市場を歪曲し、とりわけ砂糖への依存度が高い途上国経済に損害をもたらしているという内外の激しい批判を浴びてきた。いまや、そのオーバーホールが不可避の状況になっている。

 第一に、砂糖の大生産国であるブラジル、オーストラリア、タイが、この制度はEU市場への参入を妨げ、世界市場価格を押し下げることで、これら諸国に重大な損害を与えていると、WTOに提訴している。その裁定は来月にも出る。米国の綿花補助金をWTO違反とする裁定が出たばかりだが、同様な裁定も予想され、そうなれば、この制度のオーバーホールが不可避となるだろう。

 第二に、EUは、ドーハ・ラウンド成功のカギを握る農業交渉で、輸出補助金全廃を提案して交渉再発進に弾みをつけた。EUの砂糖生産コストはブラジルの5倍以上、インドに比べても3倍にはなる。にもかかわらず、EUは毎年数百万トンの砂糖を輸出している。輸出補助金があるからだ。今までの改革により、EUの輸出補助金は大きく減少してきた。EUの農業輸出補助金は、過去10年で60%減少した。それでも02年の輸出補助金は34億ユーロ(4500億円ほど)にのぼり、国際的批判の的になっている。そのうちの3分の1が砂糖輸出補助金だ。これに匹敵する輸出補助金が乳製品に使われているが、これについては改革が決定済みだ。輸出補助金全廃を約束するためには、砂糖部門の改革が不可欠である。

 第三に、EUは、49の後発途上国からの砂糖を含むすべての輸入を09年から完全に自由化すると約束している。これを実現するためにも、現行制度の改革が不可欠となる。

 フィシュラー委員の提案は、このようにして不可避の砂糖制度オーバーホールを実現しようとするものだ。とりわけ4ヵ月後の辞任を控えたフィシュラー委員には、ドーハ・ラウンド成功への道筋をつけて引退への花道を飾りたいという思いが強いであろう。

 漏れ出た提案の中味は、現在世界市場価格の3倍になる砂糖保証価格を06年と07年の間に3分の1に引き下げ、農家が生産を許される割当量を年に1760万トンから1460万トンに引き下げ、補助金付き輸出は240万トンから40万トンに減らすというというものだ。EU農民には直接支払いで保証価格引き下げの補償をする。当初は生産割当の取引を認め、生産が北ドイツ、パリ盆地、英国などの最大の競争力をもつ地域に集中することを期待するという。

 だが、切り捨てられる地域(南欧、フィンランド、東部など)の反発は当然強い。それだけではない。高い保証価格でのEU市場参入の特恵を与えられてきたACP諸国にとっては死活問題だ。不可避の改革も難航は必至だ。

 フィナンシャル・タイムズ紙の記事が出た24日、モーリシャスのマプートで開かれたACPサミットは、早速、保証価格引き下げに猛反発する決議を採択した(ACP Summit: Concern Over Reform of Sugar Regime, Agencia de Informacao de Mocambique (Maputo),6.24)。輸出補助金廃止につながる改革は結構だが、ACP諸国がEU市場に輸出する砂糖の保証価格が3分の1にもなれば、安定的で予測可能な一定レベルの砂糖収入が保証されず、EU市場への無税・無割当のアクセスも経済的には無意味になる。そうなれば、砂糖もコーヒーやココアと同じ運命を辿ることになる。この保証はACP砂糖生産国の持続的経済開発の基盤をなしてきたと言う。

 サミットは、EUに対し、ACP-EU砂糖議定書に明記された法的・政治的約束を尊重し、高い保証価格を維持するように要求した。また、保証価格を引き下げるなら、いかなる場合にも、長期開発資金を提供する欧州開発基金(EDF)ではなく、欧州農業指導保証基金(EAGGF)からのEU農民と同等の補償を支払うように要求している。

 EU砂糖制度改革は途上国間の分裂と対立を一層深めるだろう。今後の農業交渉にも、複雑な影を投げるだろう。ACP諸国の大半は最貧途上国だ。このような国々の貧困削減の最善の手段は貿易自由化なのだろうか。今までにも問われてきた問題だが、的確な解答が今すぐにも要求される。