WTO紛争処理パネル、米国綿花補助金で報告を公表 大部分がWTO違反

農業情報研究所(WAPIC)

04.9.10

 WTOは8日、ブラジルが提起した米国の綿花補助金をめぐる紛争処理に関するパネルの報告を公表した。それは、輸出信用保証など一定の輸出補助を削減約束をかいくぐる「迂回措置」、あるいは禁止輸出補助金と断じるとともに、米国が削減対象外、あるいは対抗措置対象外と主張する一定の国内助成をグリーン・ボックスと認めず、その他の価格関連国内助成も世界市場価格を大きく押し下げていると、ブラジルの主張を概ね認めている。米国は、綿花に限らず同類の補助金を大量に支出している。農業政策の抜本的変更を迫られたことになる。

 しかし、米国の国内政治状況はそれを許さないだろう。控訴しても裁定が翻らないとすれば、米国に残された道は、来るべきWTO農業交渉でこれら補助金の合法化を勝ち取るか、それができなければWTO脱退、つまりWTOの崩壊だろう。世界は大きな曲がり角を迎えた。ただし、問題が綿花だけにとどまれば、話は別だが。

 本体だけで377頁にのぼるこの報告の全容はとても紹介できないが、この歴史的決定の結論部分の要点を紹介しておく。とりわけ国内助成に関する部分は、「改革」のための直接支払いを計画しているわが国の直接支払いの構想にも影響を及ぼさざるを得ないだろう。

 パネル報告結論の要点 

 輸出補助

・一定の輸出信用保証は、削減約束の対象として掲げられた輸出補助(農業協定第9条)以外の輸出補助は、「削減約束の迂回(狡猾な回避)となるか、迂回となる恐れがあるような方法で適用されてはならず、また非商業取引がこのような約束の迂回のために利用されてはならない」という農業協定第10条(輸出補助約束の迂回の防止)に違反する。これは、米国の輸出補助削減約束を迂回する結果となるような方法で適用される輸出補助である。

 また、これらの輸出信用保証は、長期的営業費用と損失を補填するには不適切な保険料率で米国政府により提供されており、禁止補助金を構成する。

 ここで取り上げられた輸出信用保証とは、(@)3年間を超えない貸付条件で農産商品の商業的輸出販売の資金を調達するために利用できる貸付償還保証、(A)他国のバイヤーへの米国輸出業者により180日を超えない期間利用できる貸付償還保証、(B)3-10年の貸付条件で農産商品の商業的輸出販売の資金を調達するために米国金融機関により利用できる貸付償還保証を意味する。

・02年農業法が定めた綿花輸出業者へのユーザー・マーケッティング支払いは輸出補助金であり、農業協定における米国の義務に反する。また補助金および補助金相殺(SCM)協定による禁止輸出補助金である。

 ここに言うユーザー・マーケッティング支払いとは90年以来継続してきたもので、02年農業法のセクション1207(a)に受け継がれている。一定の市場条件が存在するとき、指定綿花の指定国内ユーザー・輸出業者に支払われる。

 国内助成

 紛争処理の対象となった国内助成は、96年農業法や02年農業法の下で過去に支払われ、今後も支払われるものも含む次の国内補助金である。

 (@)マーケット・ローン・プログラム支払い

 (A)国内ユーザーに支払われるユーザー・マーケッティング支払い

 (B)生産フレキシビリティー契約支払い(PFC)

 (C)市場損失援助支払い(MLA)

 (D)直接支払い(DP)

 (E)カウンター・サイクル支払い(CCP)

 (F)作物保険支払い

 (G)コトン種子支払い

 (\)上記の(@)、(A)、(D)、(E)、(F)の支払いを提供する現在の法令諸条項

 結論は以下のとおり。

・PFC支払い、DP支払い、およびDPプログラムを策定・維持する法令条項は、対抗措置の対象から除外される国内助成について定める農業協定13条(a)の条件を満たさない。つまり、「グリーン・ボックス」国内助成ではない。

 ここに言うPFCとは、96年農業法の下で支払われていたもので、02年9月に最後の支払いが行われた。綿花も含む7商品について、過去の実績(面積と収量)を基準に生産者を助成した。その目的は、農場の保全と湿地保護の要件の遵守を確保しつつ、農業の安定と柔軟性を支援することとされていた。

 DP支払いは、02年農業法が定めた。PFCの対象となっていた商品に大豆とその他の採油用種子を加えた9品目について、過去の実績(面積と収量)を基準に生産者を助成する。支払い収量と基準面積が各商品の02年から07年までの作物年度のそれぞれについて策定される生産者に支払われる。支払いは現在の価格とは無関係。02年から07年の作物年度の基準単価が02年農業法で定められた(綿花については、1ポンド当たり6.67セント)。支払いは栽培面積とは関係しない。各商品の基準面積の85%に95年の収量を乗じて支払われる。支払い額は過去の面積と収量を基礎に計算されるが、02年農業法は、面積基準の更新(98-01年に実際に作付された面積)を認めた。

 ブラジルは、PFCとDFは、支払額が基準期間以後に生産者が採用した生産タイプに関連している、基準期間が更新できる、貿易・生産歪曲効果が最小限とは言えないなどとして、農業協定の「グリーン・ボックス」助成に当たらないと主張した。米国は、これは完全にグリーン・ボックスの条件を満たすと主張した。

 なお、米国は、マーケッティング・ローン支払い、国内ユーザーに支払われるユーザー・マーケッティング支払い、市場損失援助支払い(MLA)、作物保険支払い、コトン種子支払いがグリーン・ボックスでないことを認めた。カウンター・サイクル支払い(CCP)については、市場価格低下のために与えられるものだから、グリーン・ボックスとは主張していない。WTO交渉で、新たな「ブルー・ボックス」化を目論んでいる。そうなれば、農業協定約束レベルからの国内助成20%削減も、現行支払いレベルには何の影響も与えずに済む。

・上記の国内助成は、特定商品への92年販売年度のレベルを超える助成を与えている。これは、これらの商品特定助成は92年販売年度のレベルを超えない限りで対抗措置を免除されるという農業協定第13条(b)の規定からして、対抗措置を免れないことを意味する。

 パネルの計算によれば、これらの助成のレベルは次のようになる(報告書、157頁、単位:100万ドル)。 

 

92

99

00

01

02

マーケッティング・ローン支払い

866

1761

636

2609

897.8

ユーザー・マーケッティング支払い

102.7

165.8

260

144.8

72.4

不足払い

1017.4

0

0

0

0

PFC支払い

0

616

574.9

473.5

436

MLA支払い

0

613

612

654

0

DP支払い

0

0

0

0

181

CCP支払い

0

0

0

0

1309

作物保険支払い

26.6

169.6

161.7

262.9

194.1

コトン種子支払い

0

79

184.7

0

50

総計

2012.7

3404.4

2429.3

4144.2

3140.3

・価格に関連した義務的な国内助成措置―マーケッティング・ローン支払い、ユーザー・マーケッティング支払い、MLA、CCP―は、ブラジルの利益にかかわる世界市場価格の重大な抑圧要因となっている。

 なお、これら支払いの太宗を占めるマーケッティング・ローン支払い、CCPについては、取りあえず、米国:2002年農業安全保障・農村投資法(2002年農業法)の主内容(02.5.31)を参照されたい。