WTO農業交渉 アイルランド農民がEU新提案に抗議の座り込み

農業情報研究所(WAPIC)

05.11.8

 7日、ドーハ・ラウンドの行方に決すると見られる5G(米国、EU、ブラジル、インド)閣僚会合がロンドンで始まった。さらに今日からは、参加国を増やした少数国閣僚会合がジュネーブで始まる。この決定的機会に臨み、アイルランドの10人の農民が7日、ダブリンの欧州委員会事務所で、EU・マンデルソン通商担当委員の農業交渉に関する新提案(EU、WTO農業交渉関税削減で新提案 交渉進展の起爆剤?(速報))に対する座り込み抗議行動に入った。今日は数千の農民もこれに加わるという。彼らは、新提案における関税大幅削減と輸出補助金撤廃で生計が脅かされると言う。マンデルソン提案に強硬に反対しているのはフランスだけではない。

 Big WTO protest in Dublin today after sit-in by 10 farmers,The Irish Independent,11.8
 http://www.unison.ie/irish_independent/stories.php3?ca=47&si=1501912&issue_id=13236

 彼らによると、平均で46%の関税削減と輸出補助金で最大の影響を受けるのは砂糖部門と牛肉・羊部門だ。この提案では、輸入骨なし牛肉の価格は、輸入関税を支払ったのちにも現在のEU価格の半分になる。ラム・レッグは、トン当たり1300€の輸入関税支払い後でも、EU価格よりも3割ほど低下する。砂糖は200%の関税で保護されているが、新たな関税を支払った後に、なおEU価格よりも40%低い価格の砂糖がEU市場に流れ込むことになる。

 アイルランド協同組合(ICOS)会長は、輸出補助金が改革CAPの期限である2013年を超える長い時間をかけて段階的に削減するのでなければ、2013年までにCAP再改革が必要になると言う。

 今日、アイルランド農民協会(IFA)が主導する抗議行動がダブリンの欧州委員会事務所周辺で行われるが、それは、欧州委員会と農業大臣に対し、アイルランド農民の生計がかかっているという明確なメッセージを伝えるものという。

 7日には英国大使館周辺でも抗議行動が展開された。英国は現在のEU議長国で、CAP支出の大幅削減を主張しているからだ。アイルランド牛・羊農民協会(ICSA)のトンプソン会長は、集まった農民を前に、マンデルソン提案は彼に与えられた権限を越えていると訴えた。彼は、関税を最大60%まで削減するというマンデルソン提案はアイルランドとEUの農民を存続不能にし、ヨーロッパの食料安全保障を脅かすと言う。

 Mandelson 'hell-bent on exceeding mandate',The Irish Independent,11.8
 http://www.unison.ie/irish_independent/stories.php3?ca=47&si=1501801&issue_id=13236

 関税削減で存続を脅かされるのはG10諸国の農民だけではない。

 なお、7日の会合では、マンデルソン委員は、最新の提案以上に譲歩する姿勢はまったく示さなかった。それはこのようなEUの内部事情からして当然予想されたことだ。米国とG20が譲歩しない限り、ドーハ・ラウンド成功はあり得ないことがはっきりした。