自由化はブラジルの利益 だが家族農業強化と農村経済多角化による不平等解消が重要ーOECD

農業情報研究所(WAPIC)

05.11.14

 経済開発協力機構(OECD)が、農産物貿易自由化はブラジルに利益をもたらすが、農村の不平等を減らし、大多数の小規模家族農場の競争力を強め、他産業の雇用機会を開発することに目標を絞った政策が必要とする初めての”ブラジルの農業政策レビュー”を発表した。

 OECD Review of Agricultural Policies - Brazil,05.10.31
 http://www.oecd.org/document/62/0,2340,en_2649_201185_35555454_1_1_1_1,00.html

 それによると、ブラジルの農民助成は比較的少ない。2002-04年の生産者助成額は農家の受け取り総額の3%で、ニュージーランド(2%)、オーストラリア(4%)と同様な最低レベルにあり、OECD諸国平均の30%をはるかに下回る。助成レベルが最も高いのは、小麦、トウモロコシ、米などの輸入品と競合する基礎食料品とワタで、これらでは6%から17%となる。農家への助成が農業全助成の約4分の3を占め、残りが研究開発・普及事業、職業訓練、農村インフラストラクチャーなどの一般サービスに配分されている。これら一般サービスは重要な長期投資が含むが、その半分は80年代末から90年代半ばのマクロ経済の不安定な時期に蓄積された農家負債の繰り延べのための信用補助の犠牲となり、相対的には減りつつある。

 生産者助成の低レベルは過去15年のブラジル経済の根本的変革を反映している。輸入代替政策は農業の急速な成長を不可能にしてきた。畜産の産出高は90年代に急速に増えたが、最近では高価格と為替相場低落のために大豆生産のブームが起きた。これらの影響が消え去った今、現在の成長が続くと考えるのは非現実的である。農業の成長は、大部分、生産性改善と輸入投入財の価格低下から来るもので、より最近ではこれに農地面積の増加が加わった。

 最近の農産物輸出ブームは貿易品目の構成と輸出先の変化に関連している。輸出品目はコーヒー、オレンジジュースなどの熱帯産品から大豆、砂糖、とりわけ鶏肉、豚肉などの肉にシフトした。輸出先はOECD諸国がなお重要な地位を占めており、EUへの輸出が農産物輸出の40%を占めるが、中国、ロシアなどのOECD地域以外への輸出が最も急速に伸びている。

 それでも、ブラジルの農業生産の大部分は国内市場向けである。輸出される農産物のシェアは、2004年には30%に跳ね上がったとはいえ、平均的には25%ほどに留まっている。自国の農業政策は大きく自由化されてきたから、将来の利益の多くは他の国の改革から来る。OECD諸国市場へのアクセスが最も重要な問題となる。ブラジルの輸出は、中心市場の高率関税といくつかの重要品目に関して加工度に応じて関税率が高まるタリフエスカレーション、貿易特恵計画の下での不利な扱い、関税率割当制度、特に畜産品に関する非関税措置により妨げられてきた。

 レビューは、米国、EU、その他のOECD諸国が農産物の輸入関税と輸出補助金を削減すれば、ブラジル農民は国際価格上昇の結果、利益が得られると言う。OECD諸国が農業への国内助成を50%削減するとともに、輸入関税と輸出補助金を50%削減すれば、ブラジル経済は、消費者と生産者の所得向上を通し、国内総生産(GDP)の0.3%に相当する170億ドルほどの利益を受けると推定する。

 それにもかかわらず、それは、有効な社会政策の必要性を強調する。過去15年の改革は全体としての貧困軽減を助けたが、なお農村人口の60%が最低賃金の半分という絶対的貧困ライン以下の所得しか得ていない。農村の最貧困層の状況は現在も悪化しており、貧困は北部・北東部にますます集中するようになっている。

 商業的農業は、酪農品やトウモロコシのような伝統的に小規模農民にとって重要であった分野でも、最近急速に成長した。これは、競争力に劣る半生業的農民への圧力を創り出している。彼らの長期的将来は農業外部にかかっている。従って、農村地域における所得源とビジネスの多角化を促す措置が必要になる。そのためには、有効な社会的セーフティーネットも必要になる。 

 それにもかかわらず、ブラジル経済における農業の役割の大きさを考えれば、輸送ネットワークを改善する長期的なインフラストラクチャー投資や農村信用と租税システムの改革など、ブラジル農業の全体的競争力を強め、商業的農業・非商業的農業が共に利益を得る多様な政策が必要と言う。

 関連情報
 農産物輸出拡大による途上国農村の貧困軽減に疑念ー国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会.05.11.9