最小限の補助金・関税削減協定は審議拒否と米議員 現実的目標をとOECD貿易局長

農業情報研究所(WAPIC)

06.4.8

 米議会上院財務委員会のチャールズ・グラスリー委員長が”最小限”の農業補助金・関税削減協定は委員会での審議も許さないと表明した。もはや成功の見込みがなくなったドーハ・ラウンドから引き上げよという先の下院歳入委員会のトーマス委員長の発言に続く有力議員ーこの委員会は貿易協定承認で枢要な役割を演じるーのこの発言は、ほとんどドーハ・ラウンドの死を意味する。彼は、ヨーロッパが交渉で直ちにその役割を演じなければ、現在のラウンドは死ぬだろうと語った。

 Senator warns he'll kill minimal WTO farm deal,Reuters via Yahoo!news,,4.7

  グラスリー委員長の言う最小限の協定とは、ウルグアイ・ラウンドでの36%の平均関税率削減以上に進まない協定という。また、高率関税を放任したり、多数の特別例外で市場アクセスを傷つける協定も最小限協定とみなす。彼は、交渉は直ぐにも死ぬだろう、その大部分の責任はEU、特にヨーロッパの保護主義的農産物関税の大幅削減に反対するフランス農業者に帰せられると語った。

 また、EUが問題とする食糧援助は、輸出補助金の廃止や貿易歪曲的な国内助成の削減の必要性に比べれば瑣末な問題とも言う。

 ドーハ・ラウンドの成否は、今や米国がその野心的目標を棄てるかどうかにかかっている。OECDのジャン-マリー・メツゲル貿易局長は、OECD東京センターで行った講演で、WTO交渉参加国は、交渉決裂を回避するためにもっと現実的な目標をもつべきだ、多角的貿易交渉の妥結に失敗すれば、ビジネスライフを一層難しくするもつれあった二国間協定に結果すると語った。

 野心を下げることは、道の終わりではありえない。しかし、交渉の崩壊は多角的貿易システムの死を意味する。局長は、「ノー・ディールよりもレアリスティックなデールの方がましではないのか。私は、すべての機会が失われてしまうだろうから、そう考える」と言う。

 WTO states should be more realistic on free trade pact - OECD trade chief,AFP via IATP TradeObservatory,4.6
  http://www.tradeobservatory.org/headlines.cfm?refID=80550

 実際、多角的システムの崩壊がもたらす二国間協定の跋扈は、ビジネスライフを一層難しくするだけでなく、特恵を得ようと競う諸国間の対立を激化させ、果ては戦争にまで結びつきかねない。これを防ぐことがガットーWTOの前身ー設立の基本的目的だった。それをすっかり忘れてしまった現在の風潮を、学者、政治家、官僚たちは、二国間協定は多角的協定を”補完”すると正当化してきた。だが、補完すべき多角的協定そのものが 死に体となるとき、どのように正当化するのだろうか。

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