米有力議員 ドーハ・ラウンド見切り FTAに全力を注げと政府に注文

農業情報研究所(WAPIC)

06.4.4

 米国有力議員がブッシュ米政府にWTOの下での多角的貿易自由化交渉に見切りをつけ、二国間交渉に注力するように要請した。ドーハ・ラウンドの行き詰まりの打開を狙ったリオデジャネイロでの米国・EU・ブラジルの非公式閣僚会合(3月31日ー4月1日)が何の前進もなく終わり、その成否の鍵を握る農業交渉のモダリティー確立期限が4月末に迫るなか、この動きは、ドーハ・ラウンドの先行きをますます暗くする。その成功は、もはや絶望的と言ってもよさそうだ。

 ファイナンシャル・タイムズの報道によると、貿易自由化に関するブッシュ大統領の最も重要な議会同盟者であるビル・トーマス下院歳入委員会委員長が3日、ワシントンのアメリカン・エンタープライズ研究所で、「米国とEUの間には貿易に関して妥協できない違いがある、妥協できない違いがあるときには、我々ができる最善のことはそれから手を引くことだ」と語った。議会を通して論争の激しい貿易協定を推進することでブッシュ政府を繰り返し助けてきたトーマス議員のこの悲観的結論は、ドーハ・ラウンドの妥結に向けた政府の努力に水を差すことになろうという。

 彼は、ブッシュ政府に貿易交渉権限を与える2001年のファスト・トラック貿易促進権限(TPA)法の成立に大きな力を貸した。その期限は2007年7月で切れる。多角的協定であろうと、二国間・地域協定であろうと、一切の新たな協定は、この期限が切れる前に議会の一括承認を得なければならない。彼は、この期限が迫るなか、もはや前進が見込めない多角的交渉に力を注いでいては二国間協定妥結の機会も失うことになると恐れる。

 従って、彼は、政府は努力を多国間交渉から、もっと見込みのある二国間交渉に注がねばならないと言う。米国がオマーン・バーレーンなどの中東の小国と結んだ協定や現在進行中のアラブ首長国連合との交渉は、サウジアラビアを交渉のテーブルに引き出し、またそのWTO加盟にもつながると期待する。熱狂的に支持するのは世界10番目の経済大国である韓国との協定だ。韓国との自由貿易協定(FTA)は、二つの先進経済の間での基本的再編成をもたらし得ると言う。他方、相手国の政治的混乱で停滞するタイとの現在の交渉は、無為に時間が流れていると警告する。

 Focus on bilateral trade deals, Bush is urged,FT.com,4.3
 http://news.ft.com/cms/s/ed430706-c359-11da-a381-0000779e2340.html

 とはいえ、タイとの交渉は、大規模なタクシン首相辞任要求運動が始まる前から、タイ国内に国の主権を脅かすという反対が渦巻き、ほとんど前進がなかった。それに全力を注いだとしても、期限内の妥結は保証されない。年内妥結を目指す韓国との交渉も簡単には進まないだろう。韓国政府は年内妥結に向けて血眼だが、国内にはその態勢ができているようには見えない。

 米国農業団体は、米も含む例外なしの包括的FTAを要求している。牛肉産業リーダーは、韓国の輸入牛肉に対する高率関税の廃止を要求している。米市場開放に激しく抵抗した農民の猛烈な反対行動が間違いなく爆発するだろう。

 それだけではない。盧大統領の前経済政策顧問は、大統領の”クレージー”な対米FTAへの突進は、盧体制と韓国経済全体を危険にさらすだろうと警告する。さらに、米国とのFTAは中国により脅威と受け止められ、北朝鮮の核兵器問題を解決しようとする国際的努力にも悪影響を及ぼしかねないとも懸念する。米国とのFTAで韓国の年経済成長率が7.7%上がり、10万の追加雇用を生み出すという政府予測も、”統計操作”にすぎないと一蹴する。年内妥結を急げば、タクシン政府の二の舞になりかねない。

 Former presidential aide slams FTA talks with U.S.,Yonhap,4.4
 http://english.yna.co.kr/Engnews/20060404/910000000020060404113617E4.html

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