農業情報研究所


世銀レポート:援助は有効、援助漸増を提案

農業情報研究所(WAPIC)

2002.3.13

 来週、メキシコ・モンテレーで国連主催の開発金融会議が開かれる。会議の焦点は開発援助の目標額を設定にある。1990年9月の国連ミレミアム総会では、189カ国が1日1ドル以下の貧困人口と飢餓人口の比率を2015年までに半減させるなどの「ミレニアム開発目標」に合意したが、その実現のためには開発援助の大幅な増額が必要とされているからである。世界銀行は、この会議がそのための重要なステップとみている。

 イギリス財務相・ゴードン・ブラウンは、現在の援助を年間1000億ドルに倍増する途上国のための「マーシャル・プラン」を要求した(Finance minister call for new Marshall Plan to aid poor,Financial Times,01.12.17,p.9)。世界銀行は、各国の予算の現実からして、一夜にして援助を倍増することは不可能だが、先進国は次の5年間に年間100億ドルずつ追加する漸増案を示している。欧州委員会は、開発援助をEUの平均国内総生産(GDP)の0.39%にまで増やすことをに、現在のEU平均である0.33%を下回る国が、取りあえず、2006年までにこの平均レベルまでに増やすことを提案している。この提案には特にドイツが抵抗していたが、そのドイツも会議が迫るとともに歩み寄りをみせている。

 しかし、先進国最低の対GDP比0.1%の開発援助しかもたない米国は、従来の援助の大部分が管理不良な国に向けられ、無駄に使われてきたとして、このような目標設定に強硬に反対し、世界銀行の最貧国向けソフト・ローンの担い手である国際開発協会(IDA)のローンの半分を贈与(グラント)に転換させることを望んできた。欧州諸国は、これは世銀の将来の収入源を奪うとして反発している。米国はグラントに転換すべき比率を50%より引き下げるという妥協を探っているが、イギリスは妥協を拒否している。

 このような状況のなか、世銀は、米国の態度を暗に批判するかのように、3月11日、過去50年間の開発が有効であったとする新たな研究結果を発表した(Development Effectivess: Now More than Ever, Aid is a Catalyst for Change - Press Release | Executive Summary )。レポートは、過去においては非常に多くの援助が管理不良な国に向けられてきたし、その改善の見通しも甘いことが多かったと認めている。しかし、IDAの援助は焦点を絞るようになってきており、1990年においてさえ、IDAの融資は管理不良の国(一人当たり2ドル)よりも管理良好な国(一人当たり4.7ドル)に向けられていたという。1990年代後半にはこれはさらに完全された(一人当たり6.5ドル対2.3ドル)。レポートは、援助に関連した途上国の変化について、次のような事実を強調している。

 ・過去40年間に途上国の平均寿命は20年延びた。これは20世紀半ば以前の人類の歴史全体において達成されたと同じ延びにあたる。

 ・過去30年間で、途上国の成人の文盲率は47%から25%へと、ほぼ半減した。

 ・過去20年間に、1日1ドル以下で暮らす人口は、世界の人口が16億増加したのに、2億人減少した。

 ・途上国の成長率は加速し、途上国に住む人々の平均所得は、過去35年で倍以上になった。

 さらに、貧困層の減少、教育の改善、エイズ死の減少、保健サービスの向上など関するベトナム、中国、インド、ウガンダ、バングラデシュ、ブラジル、エチオピア等の成功例も示している。

 レポートは「上手に配分された外国援助は自身の生活を改善しようとする貧しい国と人々を支援する有効な手段をなしてきた」とし、次のように援助増額を要請している。

 「過去10年、多くの豊かな国が目覚しい成長を経験した時期に、援助配分は減少してきた。実質タームで、貧困国への援助は、2001年には1990年を20%下回る。世界銀行の研究は、ミレニアム開発目標を達成するためには、途上国の経済環境の改善が継続すると仮定して、年間400億ドルから500億ドルの追加援助が必要であることを示している。この目標を達成するために、世界銀行は、ドナー国が次の5年間に年100億ドルを追加する形での援助漸増を約束するように提案する」。

 ちなみに、5年間で増額される500億ドルは先進国所得の0.2%にすぎない。

(追記:3.15)

 15日、米国ブッシュ大統領が受け取り国の改革を条件に3年間で50億ドルの援助を追加する計画を提案(議会の承認が必要)。EUもバルセロナの蔵相会議でドイツの反対を押し切り、2006年までに援助支出を50億ドル増やすことに合意した。しかし、両方合わせても、世銀の要請する今後5年間に年100億ドル増額にはほど遠い。

 関連情報とニュース・論調
 EU:開発援助増額にドイツ等が反対(農業情報研究所、3.5)
 
Assisting development,FT com,3.15
 
US and Europe boost aid to poorest countries,Guardian,3.15}
 
Doubts emerge on Bush boost for aid,FT com,3.15
 
Bush promises US aid to combat global poverty,FT com,3.15
 Editorial:Mr. Bush and Foreign Aid,The Washington Post,3.15
 Bush Plans to Raise Foreign Aid and Tie It to Reforms,The New York Times,3.15
 
Making aid a better investment(By Martin Wolf),Financial Times,2.13,p.13
 
World Bank, in Report, Defends Its Use of Aid,The New York Times,3.12
 World Bank Answers Skeptics on Aid ,The Washington Post,3.12
 L'aide au développement ne fait pas recette dans l'Union,Le Monde Interactif,3.11
 EU close to deal on help for world's poor,FT com,3.11
 A measure of good intentions for development aid ,FT com,3.10
 World Bank plea to boost overseas aid,FT com,3.6
 Rich Nations Pressured for Aid: U.S. Resists Giving Poor Countries More Anti-Poverty Money,The Washington Post,3.7

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