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中国:三峡ダム、貯水を開始ー移住者と環境は?

農業情報研究所WAPIC)

03.6.2

 6月1日、史上最大の土木工事の一つといわれる中国・三峡ダムの貯水が始まった。5月半ばの検査では、貯水を延期させる原因となっていたコンクリートの壁の割れ目の修復が完全には成功していないことが明らかにされたにもかかわらずである。

 水位は一日に4−5メートル上昇、6月15日には135メートルに達するという。8月には発電事業を開始、年末までには55億kW時の電力を生産する。1993年に始まったこのプロジェクトは218億ドルを投資、プロジェクト全体が完成する2009年までには水位は175メートルに達し、182億kW時の電力を生産すると予想されている。

 ”China Daily”紙は、このダムのために今までに72万の地方住民が移住(最終的には100万人)、彼らの再定住のために十分な財政援助が提供されたという。また、環境と文化遺産の保護、災害防止のための対策が取られているし、揚子江下流の人々の洪水の脅威が著しく減るという関係者の発言を引用している(Three Gerges reservoir begins storing water,china daily,6.1)。しかし、この公式レポートはどこまで信用してよいのかわからない。

 イギリスの”インディペンデント”紙は、10万人が移住したある県の一農民は、数千人が補償を与えられるまではと家を明け渡すのを拒否していると話したという(World's third largest river starts to rise by 400ft to create the Great Wall of Water,Independent,6.1)。同紙の報道は余りに暗い。沿岸に移住した約12万人は仕事が見つけられず、畑の代わりに荒地を与えられた。多くが帰省したともいう。約100人の農民が共産党本部まえで抗議行動を展開、「社会秩序」を乱したと十数人が投獄されている。さらに、多くの人々が環境の破局を恐れている。何十年にわたって積もった村々、病院、セメント工場の廃物、工場からの毒性の高い物質などが残っている。政府は400万トンの廃物を処理したし、処理のために30億ドルの投資を計画している。しかし、重慶その他の工業都市からのすべての汚染物質が揚子江に直接流入、水は飲むことも、農業用に使うこともできないほどに有毒になると恐れられている。環境団体は、「もし何も対策が講じられなければ、三峡ダムは工学の驚異を汚水溜めに変え、チベット大山脈の裸地斜面を流れ落ちた土砂に埋まる」と警告している。

 世紀の大事業が中国の福音となるのかどうか、とても予断できるような状況にはないようだ。