フランス:開発援助増額のための国際課税選択肢、大統領に提出

農業情報研究所(WAPIC)

04.5.19

 昨年11月、フランス・シラク大統領は、世界の貧困を削減のための資金を調達することができるあらゆる方法を探る任務を会計検査官(院長)のジャン・ピエール・ランドゥに託した。武器や金融取引への課税、宝くじ等々、遠慮もタブーもなく、開発援助を増やすためのあらゆる選択肢を探れというお達しだった。開発への公的援助は減少傾向を辿っており、2015年までに世界の貧困人口を半減させるという国連のミレミアム計画を達成するためには、500億ドルも足りないと言われている。この資金を何としても調達しなければならないという大統領の意志がこのような形で示された。

 これを受けたランドゥ氏は、開発・税制の4人の高級官僚専門家、3人の「別のグローバリゼーション主義者」(altermondialistes、「反グローバリゼーション」ではなく、別の形のグローバリゼーションを追求する新潮流)、4人の企業主、3人の高名経済学者、数人の会計検査官と共に委員会を構成、貧困国援助のための既存のあらゆる構想を点検してきた。14日付の「ル・モンド」紙によると、この委員会が14日、7月末に決定版が出る非公表段階の報告書を大統領に手渡した。クレジット・カードによる支払い、水・電気・電話料金への追加課税、あるいは任意の分担金など、12の選択肢が示されているという(Douze options sont soumises à Jacques Chirac pour accroitre l'aide mondiale au développement,Le Monde,5.14)。

 米国のノーベル賞経済学者・ジェームズ・トービンが70年代に提起した金融取引への課税(いわゆるトービン税)は、0.005%の僅かな課税でも年に100億ドルを生み出す魅力的な構想だが、現時点では非現実的と判断された。環境分野では、地球温暖化の主因とされる二酸化炭素の排出への世界的課税が研究されたが、これも実行不能と判断された。空路の利用あるいは搭乗券への直接課徴金などの航空輸送への課税も研究された。後者の場合、5%の課徴金で年に80億ドルが生まれるが、現在の航空会社の財政状態では賛同は得られないだろう。同様に、海運への課税も、OECD諸国に多大な不利益をもたらすとされた。

 残る魅力的な選択肢は、02年にファビウス元首相が提唱した武器販売へ課税で、武器輸出は年に500億ドル、10%の課税で50億ドルが得られるという。また、グローバリゼーションの最大の受益者である多国籍企業への課税により年に8千500億ドルの収入が上がるとされたが、これも企業の分散を妨げる恐れがあるという。宝くじは、収益を上げるために十分な成功を収めるチャンスはほとんどないとされた。

 こうして、大統領は、これらの「選択肢のメニュー」をかきあさることになろう。大統領筋によると、大統領は委員会に対し、航空輸送・海運への課税、証券取引への課税などの二、三の選択肢の研究を深め、可能ならば、ヨーロッパの競争力を損なうことなく地域レベルの課税を導入することも検討するように要求することになろうという。

 フランスは、9月の国連、IMF、世銀の総会で提案を行う。大統領は6月、あらゆる形態の国際課税に敵対する米国・ブッシュ大統領が主催する、世界一汚染された海に囲まれていると言われるシー・アイランドでのG8サミットで、首脳たちの心中を探るつもりでいる。

 この委員会に参加したフランスの20のNGOの連合体であるCoordination sudの会長・アンリ・ルーイェは、ル・モンドの何故この委員会に参加したのかという問いに、開発金融のような「連帯」の問題では、新たな課税が生み出すだろう歪みに対応する技術者、税制専門家、経済的当事者が必要だし、世論、市民運動と協働する関係者も必要になるから、この参加は当然と答えている。飢餓との闘いのための国際課税構想を持つブラジル人と共に、9月にブラジリアでセミナーを開き、2005年9月のミレミアム目標に関する国連会議を最終期限に運動を続けるが、幻想を抱いてはならない、国際課税のような構想の実現には10年はかかると言う。今何故国際課税なのかの問いに対しては、ミレミアム目標の達成のためには、不足している500億ドルを、政治や景気のリスクを免れる援助で埋め合わせねばならない、それには何よりも「躊躇い」を乗り越えねばならず、米国抜きでも前進はできる、米国は後からついてくると信じると答えている(Trois questions à Henri Rouillé d'Orfeuil,Le Monde,5.14)。

 農業情報研究所(WAPIC)

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