ヨーロッパ人はグローバリゼーションをどう見ているかーEUの調査報告

農業情報研究所(WAPIC)

05.6.2

 EUが5月17日、「ヨーロッパ人はグローバルセーションをどう見ているか」と題する調査報告を発表した(http://trade-info.cec.eu.int/doclib/docs/2005/may/tradoc_123146.pdf)。この調査は2003年10月に欧州委員会が委託したもので、旧EU15ヵ国の1ヵ国当たり約500人、全体で7,515人が調査対象となった。結果の誤差の範囲は95%の信頼度をもって1%とされる。調査結果は、大多数の回答者がグローバリゼーションに好意的でありながら、同時にグローバルセーションの一層のコントロール・規制を求めるという、EU市民のグローバルセーションに対する複雑な受け止め方を明らかにした。

 折りしも、フランス国民に続き、オランダ国民も、フランスをはるかに上回る62%の反対でEU憲法条約の批准を拒否した。その原因・理由について、例えば、フィナンシャル・タイムズ紙は、オランダの投票者が広範な問題―ユーロ(単一通貨)への抗議、提案されているトルコをEUに迎え入れる拡大、EUへの権限移譲による国家主権の喪失感、EU加盟国であることから生じるコスト―に関して勢力を結集したと言う(Europe in turmoil as the Dutch vote No,FT.com-world,6.2)。BBCニュースは、多くの投票者は、EU執行部たる欧州委員会が権限を持ちすぎ、国の政治家は国民を十分に保護していないと感じていると言う(Dutch say 'No' to EU constitution,BBC News,6.2)。原因・理由の解明は今後に待つほかない。

 しかし、そのカギの一つが「グロバリゼーション」の複雑多様な受け止め方にあることは間違いなさそうだ。貿易立国のオランダには、「グローバリゼーション」は不可欠である。国民も広くそれを受け入れてきた。その拒否が批准拒否の原因とも言い切れないが、この国民感情自体も、一気に反転するような複雑な内実を抱えているかもしれない。それは、方向性を見失いかねない危機に陥ったEUの、従ってまた国際社会の今後の進路にも影響を与えるかもしれない。これを機に、この興味ある調査の結果を紹介しておきたい。

 1.グローバリゼーションの進展に関する全体的スタンス

 1)グローバリゼーションの進展に関しては、全体では65%が好意的で、反対者は29%にすぎない。好意的な者の比率はオランダ(78%)、アイルランド、ドイツ(両国とも71%)で特に高く、次いでイタリア、ルクセンブルグ、フィンランドで高い。反対者の比率はギリシャ(51%)で過半を超え、オーストリア(40%)、フランス(33%)でも平均レベルを超える。

 2)グローバリゼーションが将来一層進展するとすれば、自身と家族にとって、全体的として有利か不利かという問いに対しては、過半(52%)が有利と答え、不利と答えたのが32%。現在のグローバリゼーションに「好意的」な者のなかにも、これ以上の進展は有利にならないと考える者が少なからずいるということのようだ。一層の進展が自分と家族に有利となると考える(従って一層の進展を望む?)者の比率は、外国からの投資で経済を大きく成長させてきたアイルランド(66%)、ポルトガル(63%)で特に高く、次いで英国(61%)、ドイツ(60%)で高い。不利になると考える(従ってこれ以上の進展は望まない?)者の比率は、フランス(47%)、ギリシャ(46%)、ベルギー(44%)で特に高い。

 2.自国及びEUの経済の開放・閉鎖度

 1)自国経済が過度に開放的か、閉鎖的か、それとも世界経済に適合しているかどうかに関しては、適合していると答える者が最大多数で41%、余りに閉鎖的とする者が31%、過度に開放的とする者が20%である。フィンランドを除くすべての国で、過度に開放的とする者より、余りに閉鎖的とする者が多い。この傾向は、特にポルトガル、ギリシャ、イタリアで目立ち、べルギー、スペイン、オーストリア、スウェーデンでも顕著である。過度に開放的とする者が最も多いのは、フランス(29%)、英国(26%)である。

 2)EUが余りに保護主義的か、自由主義的か、それともどらでもない(適度?)かという問いに関しては、やはりどちらでもないが最大多数で43%だが、余りに自由主義的とする者(26%)が余りに保護主義的とする者(22%)を上回る。余りに保護主義的とする者が余りに自由主義的とする者を上回るのは、デンマーク、スペイン、アイルランド、オランダ、オーストリア、フィンランド、スウェーデン、英国で、概して北部諸国がEUの一層の自由主義化を望んでいるようだ。スペインでは、前者が後者を1%上回るだけである。余りに保護主義的とみる者の比率はオランダで特に高く、44%にのぼる。他方、余りに自由主義的とする者の比率は、ドイツとフランス(ともに34%)で最も高い。

 3.グローバリゼーションは好機か、脅威か、またその分野別影響

 グローバリゼーションが好機と考える者は56%で、脅威と考える者の39%を大きく上回る。ただし、肉体労働者に関しては、この差は小さい。グローバリゼーションは、主として肉体労働者の脅威となっている。ほとんどの国で好機と見る者が脅威と見る者を大きく上回るが、フランス、ギリシャ、ベルギーは例外で、脅威を見る者が、それぞれ58%、58%、53%を占める。

 グローバリゼーションが最も好影響を与えるとみられている分野は、技術・科学の進歩と国家間の文化交流である。豊かな国と貧しい国の不均衡に関しては、両者の連帯には好影響があるが、格差の拡大の悪影響があると見る者が多い。グローバリゼーションは国の間の不均衡を生み出す一方で、連帯意識も高めている。

 その他、グローバリゼーションが好影響を与えると見る者が比較的多い分野は、民主主義、保健、経済成長、公共サービス、悪影響を受けると見る者が多い分野は、雇用と環境である。この傾向は、公共サービスと雇用を例外として、すべての国で共通に見られる。全般的に、グローバリゼーションに最も懐疑的なのはギリシャとフランス、最も好意的なのはアイルランド、英国、フィンランドである。

 雇用に関しては、71%のフランス人が悪影響があると見ている一方、アイルランドではこの比率は33%にすぎない。雇用に悪影響があるという見方は、アイルランド、イタリア、スウェーデン、英国、デンマークを除くすべての国で共有されている。特に40-50歳代の者が悲観的である。公共サービスへの悪影響を見る者が優勢なのは、デンマーク、フランス、オーストリアだけである。

 4.グローバリゼーションの恩恵は誰が受けるか

 多国籍企業が恩恵を受けているとする者が87%に上る。次いで、金融市場(80%)、EU(77%)、米国(76%)、日本(68%)、中国(66%)、消費者(64%)、途上国(54%)となる。ここまでは恩恵があると見る者が恩恵なしと見る者を上回るが、中小企業、農民が恩恵を受けるとする者は38%、35%にすぎず、恩恵なしと見る者が58%、59%に達する。中小企業と農民はグローバリゼーションの最大の犠牲者と見られている。

 5.グローバリゼーションの主役:信頼と影響力

 グローバリゼーションを正しい方向に導く主役として信頼が高いのは、消費者団体(67%)、自分の国(60%)、EU(61%)、国際機関(56%)である。労働組合(45%)、国の政府(45%)、反グローバリゼーション・別のグローバリゼーション運動(42%)への信頼は下がり、不信(それぞれ51%)の方が上回る。さらに、政党(信頼:28%、不信:69%)、金融界(33%、62%)、多国籍企業(31%、64%)、米国(28%、69%)を信頼する者は非常に少なく、不信者が圧倒的に多い。

 他方、誰がグローバリゼーションに影響を与えているかに関しては、最も信頼されている消費者団体が正当な影響を与えているとする者は22%にすぎず、十分な影響力を持たないとする者が66%に達する。比較的信頼度が高いEU、自国、国際機関が正当な影響力を行使していると見る者も、それぞれ37%、32%、32%と少ない。最も信頼がないのに過度の影響を与えていると見る者が最大なのは、米国(75%)、多国籍企業(62%)、金融界(50%)である。多くの欧州市民は、グローバリゼーションが「正しい方向」に導かれることを望みながら、現実は逆方向に進んでいると見ているようだ。

 調査報告は、「グローバリゼーションに関する彼らの比較的好意的なスタンスにもかかわらず、大多数のヨーロッパ人(62%)は、グローバリゼーションが有効にコントロールでき、規制できると考えており、その進展の舵取りのための一層厳格な規制の実現を望んでいる。56%は一層の規制を望み、規制を減らすのを望むのは17%、現在の規制で適当を考えるのは20%である。この分析はオランダとデンマークを除き、広く当てはまる」と言う。

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