農業情報研究所

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知的財産権委員会報告への英国政府の対応
−農民の種子への権利を保護、ActionAidのコメント−

03.6.7

 昨年9月、このホームページで、イギリス政府により設置された独立機関である「知的財産権委員会」が知的財産権の貧困層や途上国への影響に関する報告を発表したことを伝えた(イギリス:知的財産権強化は貧困国を害するー政府委員会報告,02.9.17)。その際、「この報告が、WTOにおけるTRIPs(知的財産権の貿易関連側面協定)交渉におけるイギリス政府の態度にどのように影響するかは、未だ明らかでない」と報告したが、今年5月7日、この政府委員会の報告に対するイギリス政府の反応が示された(The UK Government Response to the Report of the Commission on Intellectual Property Rights “Integrating Intellectual Property Rights and Development Policy”)。同じ日、これに対するActionAidのコメント(ActionAid comments on the UK Government Response to the Report of the Commission on Intellectual Property Rights)も発表された。このコメントによりイギリス政府の反応と開発支援団体の主張の要点を知ることができる。この問題は農家が貯えた種子を保存し、使用し、交換し、販売する「農民の権利」に深く関係する。以下に、このコメントを要約・紹介する。

 ActionAidは、先ず、イギリス政府が植物と作物に関する特許は途上国と貧しい農民には適切でないと認めたと歓迎している。

 特許保護の対象

 TRIPs[第27条]は各国が微生物と微生物学的・非生物学的方法を特許で保護しなければならないとしているが、政府は、各国がこれらに特許保護を提供しなければならないとしても、遺伝子組み換え(GM)作物を含む植物と動物に特許を与えるかどうかは各国の自由であるとする委員会報告に同意、さらに途上国が「微生物」を国独自に定義ことに賛意を示している。

 ActionAidは、食料と農業のための遺伝子資源は特許の対象としないことを求めており、委員会と政府のどちらもこの要求を完全に満たすものではないが、特許の対象を「微生物学的・非生物学的方法」と「微生物」に限定し、その結果としての産物ーこの場合には植物ーを外したことは歓迎できるとしている。

 植物品種保護の方法

 TRIPsは植物品種を特許で保護するか、独自の(sui generis)な方法で保護するか、各国の自由としているが、政府は、独自な方法は重要であり、途上国に「一層適した選択で十分にあり得る」とし、またこの観点からTRIPsにおける既存の柔軟性を維持するのが最善とする委員会報告に同意した。

 ActionAidは、政府の反応を歓迎、1991年の植物新品種保護条約(UPOV)を有効な独自システムとして強要されることなくコミュニティーと農民を有効に保護する自身の独自な法を各国が自由に定め、発展させるべきだと言う。

 農民と研究の特権/権利

 政府は、農民と研究者の特別の権利、特に保護品種・特許品種両方の種子を保存し、販売する「農民の権利」が保護されるべきことに同意した。

 ActionAidはこれに同意、農家が貯えた種子とその他の繁殖用物質を保存し、使用し、交換し、販売する「農民の権利」がすべての知的財産権制度で保護されるべきだと言う。

 情報開示

 政府は自身の政策に反響するが、直接には英国法に影響を与えない分野も強調した。例えば、政府は、すべての国がその立法で情報開示義務を採択すれば有益であると認めた。

 ActionAidは、政府が、原産地開示を含むいくつかの重要問題で議論が行き詰まっているTRIPsのレベルでの問題解決を待つことなく、これを英国法に翻案することを希望すると言う。

 知的財産権政策一般

 政府は委員会により整理された知的財産権(IP)についての先進国の歴史的経験に関する証拠の解釈には別の解釈の余地があると述べている。政府は、現在の先進国は過去にIPを選別的に利用したからといって、現在の途上国にこれが最も適していると言うのは論理的でないと言っている。

 ActionAidは、政府が、途上国は現在の先進国が使った方法を追うべきではなく、先進国の最近の農業革新と保護のモデルに習えというのは謎めいている、肝心なことは途上国が政策選択の大きな幅を否定されないことであり、先進国は発展レベルに応じてIP政策を調整しなければならないと言う。

 知的財産権と革新

 政府は、知的財産権が研究と革新を刺激し、遺伝資源と農業の分野で重要な役割を果たすと主張している。しかし、委員会報告も、英国・米国の植物育種者の権利に関するActionAid自身の研究を含むその他の研究も、「植物育種者権(PBRs)」と革新、競争と投資、PBRと独占の間の明確な関連はないと強調している。

 政府は、知的財産権が農業部門における「フォーマルな」革新を促すのに役割を演じるとしながら(これも疑わしい)、世界中の小農民が実践するインフォーマルな知識や革新のシステムを無視しており、侵食することもしばしばだという事実を認めていない。

 農業研究

 ActionAidは公的部門と小農民グループによる農業研究に中心的役割を与えるように政府に要求する。公的部門の研究・開発投資は、途上国の貧しい農民のために良質の種子を育種することで、食糧安全保障の継続的確保の基盤となってきた。米国研究団体・IFPRIの最近の研究は、公的部門の研究・開発投資はインドと中国の貧困軽減の三大要因の一つであったと指摘している。

 FAOの植物遺伝子資源国際条約

 英国政府による批准及び他の国の批准に向けての働きかけの発表を歓迎する。

 TRIPsの根本的改善の可能性

 現在の英国政府の立場はTRIPsの枠内での問題解決であり、大幅改革には考えていない。委員会報告も同様である。

 フォローアップ

 ActionAidは、「農民の権利」を保護し、途上国が自由に植物と動物の特許を排除できるように、グローバルな特許ルールとTRIPsにおける必要な改変を主導するように政府に要求する。また、英国政府は、委員会の勧告を途上国政府に広く伝え、途上国政府が、援助供与者や貿易相手、企業の報復を恐れることなく、自信をもってTRIPs委員会が与える柔軟性を利用できるようにすべきである。