農業情報研究所

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「計略的ルールと二重基準」ーOxfamレポート

農業情報研究所(WAPIC)

2002.4..16

 Oxafamレポートの基本的立場ー計略的ルールと二重基準

 4月10日、民間国際援助団体のOxfamが、自由貿易を称揚しながら、途上国産品に対する高い貿易障壁を維持する豊かな国を非難するレポート「Rigged Rules and Double Standards」を発表した。

 レポートに表明された立場の特徴は、(強硬派の反グローバリゼーション運動の主張と異なり)自由貿易そのものに関しては貧しい国の発展を助ける巨大な潜在力をもつと認めながら、豊かな国が自身の製品について維持する高い貿易障壁と、その生産者、特に農民に対して与えられる補助金のために、貿易がはぐくむ繁栄の分け前を途上国が共有できないと主張することにある。

 発展を助長する自由貿易の潜在力

 レポートは、東南アジアの例を引き、貿易は貧困者のためにならないいう主張を退ける。それは、東南アジア諸国では「1970年代半ば以来、輸出の急速な成長が4億人以上の人々を貧困から救い出した経済成長に寄与してきた」という。貿易は援助や債務救済以上に途上国の成長に寄与する。「もしもアフリカ、東アジア、南アジア、ラテン・アメリカがそれぞれ世界輸出のシェアを1%伸ばすならば、それから生ずる所得のゲインは1億2千800万人を貧困から救い出すことができる」。

 豊かな国の貿易障壁と途上国生産者を破壊する安値輸出

 ところが、豊かな国ーEU、米国、カナダ、日本ーは、自由貿易の主張を自ら裏切り、貿易システムを自分が圧倒的に有利になるように歪めている。豊かな国は貧しい国の最も重要な産業(労働集約的な農業やと繊維産業)に対して最高度の貿易障壁を築いている。レポートによれば、豊かな国の貿易制限は、途上国が受け取る援助の2倍に相当する年1000億ドルのコストを途上国に課している。こうした貿易制限により、サブ・サハラ・アフリカは年に20億ドルの損失をこうむる。

 Oxfamは、豊かな国が信奉する自由貿易の原理と現実の保護主義的慣行のギャップを測るための「二重基準指数」の測定を試みた。これは、平均関税率、繊維と農業における関税規模、後発途上国からの輸入の制限など豊かな国の10の重要な貿易政策の評価に基づくものである。これによると、EU、次いで僅かな差で米国が最大の「離反者」となるが、どの国も「離反者」たることを免れない。二重基準は農業分野で最も顕著である。レポートによれば、豊かな国の国内農民に対する1日当たりの補助金は10億ドル以上に達し、そのほとんどが最も豊な農民により享受され、環境に重大なダメージを与えている。

 それだけではない。これらの補助金は過剰生産を生み出し、それが納税者と消費者が負担するさらなる補助金の助けで世界市場に安値輸出されている。Oxfamは、EUと米国の安値輸出の規模も測定しているが、これら二つの農業スーパー・パワーの農産品輸出価格は生産コストよりも3分の1以上低い。こうした安値輸出が途上国からの輸出品の価格を押し下げ、小農民に破滅的影響を与えている。

 IMFと世銀の性急な自由化要求 

 Oxfamは、IMFや世銀が途上国に対してと同様に豊かな国に対して自由化を要請していることは認めるが、次のようなハイチの例をあげて、途上国に対する援助の見返りとしての自由化要求が余りに性急であることを問題にする。

 1980年代、ハイチは、IMFと世銀による援助を受けるために、急速な貿易自由化を開始した。コメの関税は50%から3%に引き下げられ、米国からの安価な輸入品が国中に溢れることになった。1990年の初めにはコメの自給率は100%であったが、10年後には半減した。都市民は安価な食料で利益を得たが、農民にとっての結果は破滅的で、子供の半分は栄養不良になり、農村人口の80%は貧困ライン以下で暮らしている。

 レポートは、IMF・世銀が援助の条件としてのこのような性急な自由化の要求をやめるべきであるという。

 低く不安定な商品価格と多国籍企業の投資・雇用慣行

 レポートは、貧困からの解放を妨げる要因として、さらに国際社会がまじめに取り組んでこなかった商品価格の低さと不安定を重視する。それは、アフリカ、ラテン・アメリカ、アジアの国々の経済を健全に維持するために不可欠なコーヒーのような商品の価格を安定化させるための新たな制度の設立を要請している。また、自主的ガイドラインよってしか拘束されない多国籍企業の投資・雇用のために、これら企業が途上国の労働権に関して非道に振舞っていることにも非難の鉾先を向けている。

 不公正なWTO

 批判はWTOにも向けられる。知的所有権・投資・サービスに関するそのルールの多くは豊かな国と強大な多国籍企業の利益を保護するもので、途上国に巨大なコストを課している。この不公正はWTOの合法性について基本的疑問を生むという。レポートによれば、世界貿易制度の改革はグローバリゼーションにより広がる社会的不公正を終わらせるための要件の一つにすぎず、機会を広げ、保健・教育・所得分配の不平等を減らすための行動が必要であるが、世界貿易ルールは貧困問題の枢要な部分をなす。それは、昨年11月のドーハ閣僚会合で始まった新ラウンドの最大の課題でなければならない。

 WTO事務局長の反応とEU・米国の対応

 WTOのムーア事務局長は、11日、先進国に対して途上国産品への市場開放を要求するこのレポートを歓迎するとしながらも、そのWTOに関する記述には間違いと遺漏があると表明した(WTO Press Release:Moore welcomes Oxfam report but cites omissions and errors)。彼によれば、Oxfamは途上国からの輸出への障壁の低下において新ラウンドが演じうる役割を見落としている。貿易関連知的所有権協定(TRIPs)に関するOxfamの主張は、ドーハ会合で加盟国が公衆保健のための行動を取ることは妨害しないという合意ができた後では奇妙である。

 しかし、新ラウンドが真にそのような役割を演じうるかどうかは、基本的にはEUと米国の対応にかかっている。EUは、抵抗する途上国を説得して新ラウンドを始動させるために、後発途上48カ国に対して「武器を除くすべて」の産品のEU市場への自由アクセスを認めた。しかし、Oxfamは、この措置は関税ピーク、農業補助金、繊維保護、アンチ・ダンピングを含む残った障壁を相殺するものではないという。これらの障壁の一定の引き下げは可能であるとしても、途上国を満足させるほどの変化を許す域内事情はない。

 米国については、状況はもっと悲観的にみえる。鉄鋼セーフ・ガード措置の発動を始め、最近は保護主義的傾向が強まっている。農業補助金は、現在審議中の新農業法により、今以上に生産・貿易歪曲的になる可能性が大きい(自由化に逆行する米国ファスト・トラック法と新農業法、新たな貿易交渉は失敗の恐れ,01.12.18)。これが成立したときには、「二重基準指数」はEUを抜くことになるかもしれない。

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