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EU、途上国へのエイズ薬等値引き販売促進規則を採択

農業情報研究所(WAPIC)

03.5.28

 5月26日、EUが高レベルのエイズ・マラリア・結核に苦しむ76途上国への安価な薬の供給を促すための規則を採択した(Access to medicines: EU clears plan to ensure delivery of cheap medicines to developing countries,5.26)。対象となる国は最貧途上国(後発途上国)が中心をなすが、インド、中国も含まれる。これら三つの病気は途上国の最大の死因をなしており、毎年3億人が罹患、500万人を死亡させているといわれるが、蔓延を防止は有効なワクチンの欠如と治療薬の禁止的な高コストに阻まれている。

 目下のWTOドーハ・ラウンドでも、多くの途上国が知的所有権に保護された高価な薬品のコピー薬を一定の途上国に安く供給することを可能にする協定を最優先で求めているが、製薬企業の利益を優先する米国政府の反対に阻まれている。製薬企業に大幅な値下げ販売を促す多数の計画もあるが、実行をためらう企業が多い。これら企業が最も恐れているのは、安価な薬が先進国に逆流し、先進国市場での利益が失われることである。

 EUの新規則は76ヵ国からの薬の再輸入を禁止することでこの心配を和らげようとするものである。これらの国に販売される製品にはロゴを付し、先進国で販売される製品は色・サイズ・形状などを変えて区別しなければならない。価格については、OECD諸国平均の4分の1か、直接生産費に15%プラスしたものを求めている。値引き販売促進の対象は上記三つの病気の薬に限られるが、システムがうまく働けば、追加も考えるという。EUは他の国がこれに続くことを期待し、6月1-2日のエビアン・サミットの優先議題になると言う。

 しかし、これはあくまでも企業の自主的行動を促すものであり、企業の実際の行動につながるかどうかはわからない。同時に、この程度の値引きで貧しい国に対する実際の助けになるのかという疑問もある。

 ファイナンシャル・タイムズ紙によれば、開発NGO・Oxfamは、「ヨーロッパでのエイズ薬の年間コストは最低で1万1千500ドルである。このルールの下では、値引き価格は2千500ドルになる」が、保健省が年間・一人当たり1ドルしか支出できないザンビアのような国では、ほとんど何も変わらないと言っているという。また、製薬産業も、ルールは非常に硬直的で、企業が途上国への値引き輸出を増やす刺激要因にはならないと言っているという(EU acts to speed up flow of cheap Aids drugs,FT com,5.26)。