アフリカに「WTOへの希望放棄」の動き、険しいWTOの前途

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.27

 アジア太平洋21ヵ国はバンコクで開かれたAPEC首脳会談で、デルベス・メキシコ外相によるWTOカンクン閣僚会議の閣僚宣言案を基礎に新ラウンドの議論を再活性化させると宣言した。カンクン会合を失敗に追い込んだ元凶と批難されたG22+グループを主導するブラジル・インド・南アフリカ(南米共同体=メルコスル)は自由貿易協定(FTA)を模索するなど二国間交渉を加速させているが、先進国の農業補助金削減や農産物市場の一層の開放は二国間交渉では望めないと、とりわけブラジルや南アフリカはWTO交渉再開を積極的に求めている。

 しかし、EUはこれら諸国のWTO交渉への熱意を疑い、様子見の姿勢に徹している。EUは農業補助金や投資・競争政策について最大限の譲歩をした。今度はほかの国が譲歩する番だが、そんな様子は見られないというわけだ。インドはデルベス案を基礎とすることさえ拒否している。

 米国は二国間交渉に傾斜、G22+から離脱させた中米諸国、オーストラリア、南部アフリカ関税同盟との自由貿易協定(FTA)締結交渉を加速するとともに、タイとの交渉も約束した。FTA交渉は、政治的・経済的力関係の差によって農業補助金削減や一定の農産物・製品の米国市場の一層の開放の要求を蹴飛ばすとともに、WTO交渉では望めないサービス市場開放や知的所有権保護の強化を相手国に強要することができる。その上、それはテロ撲滅という米国の目下の最優先課題に協力する国の輪を広げるための要の手段となっている。例えば、米国原潜の寄航を認めず、イラク戦争にも協力しなかったニュージーランドはFTA交渉相手から排除された。オーストラリアがFTA締結に成功すれば、ニュージーランドの大量の資本がオーストラリアに向かって逃げ出すだろう。ニュージーランドは米国のテロ撲滅政策に協力しないかぎり、経済破滅の脅威にさらされる。米国は、もはや厄介な要求を突きつけるWTO加盟国との交渉を忌避している。

 仮に交渉が再開されても、またデルベス案を基調にしようとしまいと、交渉難航は必至であろう。次回閣僚会合が開かれたとしても、カンクン同様の結果になるかもしれない。いや、そこまで辿り付く前にWTO自体が瓦解する恐れさえある。米国、EU、G22ばかりが注目されているが、もうひとつの要素にも注意を向けねばならない。カンクン会合の第3日(9月12日)、新たな共同ポジション・ペーパーを出したアフリカ同盟・アフリカ・カリブ・太平洋(ACP)諸国・後発途上国諸国の動向だ。国の数で言えば、これらの国々だけでWTO加盟国の過半数を超える。

 そのペーパーは、市場アクセスに関して、いわゆるブレンド方式は先進国が「輸入センシティブ」な品目に高率関税をかける柔軟性を与えると、高率関税・タリフピーク・タリフエスカレーションに挑戦するフォーミュラを要求していた。先進国の関税削減その他の市場アクセス約束は途上国よりも相当に大きなものでなければならない。国内助成・輸出補助についても類似の要求をしていた。それは、既存の地域特恵の利益も強調している。これらの国の退場がきっかけとなって会合が崩壊してしまたたわけである。これらの国では、いまやWTO加盟国としてとどまることへの見直しの動きが広がっている。

 ナイジェリアの人民民主党全国委員長で大統領農業問題特別顧問のオージュ・オグベは、綿製造業協会と繊維製造業者の会合で、ナイジェリアはWTOを脱退するかどうかの決定の瀬戸際にあると語った(Nigeria to Review WTO Membership, Says Ogbeh,This Day (Lagos),10.21)。1996年のWTO協定以来輸入は増えるばかり、あらゆるものが輸入されて国の経済には悪影響しかない。輸入業者が輸入できない品目種がインドでは214種、中国では130種あるのに、ナイジェリアには20種しかない。増えつづける輸入への支払いで国の経済は崩壊してしまう。ジュート袋の輸入に1,300億ドルを支出したちょうどそのとき、二つのジュート工場が閉鎖に追い込まれた。失業率が急騰する恐れが広がっているというのである。ここでは、先進国だけではなく、中国、インドといった大国と弱小国の対立が鮮明に現われている。

 21日には、セネガル大統領・ワッドがEUの欧州議会で、WTOへの希望を放棄、世界貿易促進を目指す国々のブロック間の直接交渉を求めると表明した(Sengalese Leader Abandons Faith In WTO, Prefers Direct Talks On Trade,AFP,10.21)。WTOは余りに広がりすぎ、加盟国間の共通の利害を見出せなくなってしまった。従って、例えばEUとACP諸国の間、あるいはEUとアフリカ諸国の間のような大陸間の直接対話を支持すると言う。EUとACP諸国の地域グループは、現在、コトヌー協定に基づき、FTA交渉に入っている。大統領は、農業部門などへの先進国の補助金を批判、「我々は自由貿易ではなく、公正貿易を求める。自由貿易は求めるが、すべてがルールに従うという条件でのみでだ。EUも含む先進国はルールを尊重していない」と、とりわけ米国とEUの農業補助金を批判、このような援助の即時廃止は要求しないが、廃止されるまでの間は「金銭補償」を要求するとも述べた。これは、中米諸国も米国との現在のFTA交渉で要求するようだ。だが、こんな要求がWTO交渉で通る見込みはまったくない。カンクン会合で、ベナン、ブルキナ・ファソ、チャド、マリの西アフリカ4ヵ国が、先進国の綿補助金によりこれらの国が損害を受けているとして、補助金の廃止と、補助金が廃止されるまでの経済的損害の補償を求めたが、米国は頑として応じなかった。

 これらの国々が「WTOへの希望を放棄」すれば、WTO自体の存在意義が問われることになる。だが、WTOが権威を失えば、「大国」の弱小国「搾取」に一層拍車がかかることになる。多国間の「公正貿易」ルールは不可欠である。これら諸国の動向にも十分な注意を向けねばならない。

農業情報研究所(WAPIC)

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