農業情報研究所>グローバリゼーション>二国間関係・地域協力>ドキュメント2015年8月6日
TPP閣僚会合もう一回?期限はとっくに切れている パブリック・シチズンの「TPP投票カレンダー」
これが最後となると言われたハワイ閣僚会合でも、TPP交渉はついに最終合意に至らなかった。それでも、残る難題は知的財産権だけ、あとは決着済みか、短期で決着できるとして今月中の再度の閣僚会合が模索されている。
TPP 残る難題 知財だけ 甘利担当相 閣僚会合は進展前提(日本農業新聞 15.8.5)など。
しかし、知的財産権の問題は、米国が新薬の保護期間を12年(オーストラリアは5年)に延ばすという主張を変えないかぎり、まず決着はあり得ない。さりとて、米国がこの問題で譲歩すれば、米国議会によるTPP承認はあり得ないだろう。ファストトラック法は反対していた一部共和党議員が支持に回ることで辛うじて成立したが、この譲歩で多くの共和党議員もTPP反対にまわるからである。
それよりもなによりも、8月中に決着にこぎ着けたとしても、それで今年中の米国議会審議に間に合うのかということだ。ハワイ会合が最後の会合と言われたのは、7月中に決着しなければ米国議会のTPP審議が大統領選挙年の来年にずれこみ、TPPが長期間漂流すると見通されたからだ。もう一回会合を開けばTPPの将来が見えてくると思っているのだとしたら、諦めが悪いだけでなく、甘すぎる。
なぜハワイが最後だったのか。往生際の悪い人のために、ハワイ閣僚会合に先立ち、7月23日に発表された米国パブリック・シチズンの「TPP投票カレンダー:オバマ政府の2015年議会TPP投票をめぐる誇大宣伝はファストトラック法のタイムラインに調和しない」を紹介しておく。
TPP Vote
Calendar-Obama Administration Hype
About a TPP Vote in 2015 Does Not Comport with Fast Track Timelines,Public
Citizden,15.7.23
TPP主唱者は議会が2015年中にTPP(環太平洋パートナーシップ)協定を投票にかけることを切望している。しかし、そうするためには、ファストトラック法が要求する通知期間と投票に先立つリポートの時間枠を前提とするかぎり、TPP交渉―およびTPP協定文書(テキスト)そのもの―が7月末までの完成していなければならない。TPP調印の意志が8月1日までに議会に通知されるならば、TPPに関する最終投票は議会12月会期の最終週に行われる可能性がある。
ファストトラック法ルールの下での最速のタイムラインを想定、またTPPの影響に関する国際貿易委員会(ITC)のリポートが過去のいかなる協定の場合よりも早く完成すると想定すれば、投票は調印の意志の議会への通報のおよそ4ヵ月半後に行われ得る。
従って、交渉は7月28-31日の閣僚会合で妥結せねばならず、テキストも調印の意図を8月1日までに伝えるために用意されていなけれなならない。このテキストは8月31日には公表されねばならない。これにより、12月14日の週の投票が可能になる。それ以後、議会は休会に入り、投票は2016年にずれこむ。
投票が2016年の大統領選挙年にずれこめば、不人気なTPP賛成投票の政治的コストがエスカレートする。民主党、共和党の大統領候補は既にTPP攻撃を始めており、彼らの公然たる批判は一層の雇用喪失という協定の脅威への公衆の注目を生み出すだろう。2016年のTPP投票は、2016年11月の議会選挙で投票者がTPP賛成投票者を罰するリスクも増やす。
ミニマム時間枠:交渉妥結と議会での投票の間隔は4ヵ月半
この仮説的タイムラインは、過去の貿易協定で起きたより早いキーポイントの通過と、行程を妨げるいかなるハプニングも起きないことを想定している。これはファストトラック法の下でのTPP投票の最速のタイムラインである。
もしTPP“合意”(Deal)が7月31日、“最終”TPP閣僚会合で発表さされるとしたら・・・
最終“合意”が発表されたとしても、最終テキストはあり得ない。知的財産権や投資のようないくつかの重要な章では政策ルールを述べる条文になお異論が残っている。市場アクセス問題や原産地規則の問題も未解決の部分が残っている。投資、国有企業、サービス、政府調達の章について、例外やコミットメントに関するすべてのスケジュールも完成しているわけではない。最終テキストは仮調印のために利用できないだろう。議会はテキスト調印の意志の通知を受けることができない。しかし、今はテキストが存在し、通知が可能と仮定しよう・・・。
もしもテキストができ、8月1日に調印の意志が議会に告げられたら・・・
迅速な妥結に疑問を投げかける未解決の問題に関するTPP各国大使のコメントにもかかわらず、交渉妥結とテキストの具体化のあり得る最短の時間枠を想定すると、テキストは8月1日に仮調印されねばならず、オバマ大統領は調印の意図の通知から90日後、10月30日にテキストに調印することになる。
ファストトラック法は大統領に対し、協定調印の少なくとも90日前に議会に通知するように要求している。また、調印前のこの90日の間に、大統領は存在するはずの協定の詳細をITCに提供せねばならず、ITCに協定の経済影響のアセスを要請しなければならない。オバマ政府は最終協定の詳細を提供できなくてもアセスをするようにITCに要請しているが、ITCは最終協定なしでもアセスすることが要求を満たすことになるかどうか回答を拒否している。
もしも8月31日にテキストが公表されたら・・・
(以下要旨のみ)
ファストトラック法は調印の意志の通知から30日後にテキストを公表することを要求している。これは、通商代表部が実際には最終テキストが存在しないのに存在すると主張する人を欺くことができる時間が30日しかないことを意味する。ということは、最終テキストは調印の意志を告げる前に出来上がっている必要があるということだ。
もしも10月30日にテキストに調印されたとしたら・・・
これは後に紛争の種を残さないようになされる最終テキストの法的精査の時間が90日しかないことを意味する。最終テキストが英語だけならそれは可能だが、他の言語が加わるとどれほど時間がかかるか分らない。
ファストトラック法は、調印したテキストを議会に送った後、少なくとも30日待って協定実施法を提案するとしている。大統領はTPPの最終法的テキストのコピーを議会に提出した30日後、協定実施法案、実施法に伴う米国法の変化の説明・・・を議会に提出することになるだろう。
もしもTPP実施法が11月30日に提出されたら・・・
ITCがTPPの経済影響評価を完成することが要求される。これは法的義務ではないが、影響評価を待って貿易協定を考えるのが議会の常である。
論争が少ない既存貿易協定に関する投票についての議会の通例に従うと、TPPに関する最終投票は議会が休会に入る前の最後の週、12月14日に始まる週に行われる可能性がある。