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欧州委員会、対東南アジア戦略を採択、FTAも視野だが?

農業情報研究所WAPIC)

03.7.10

 欧州委員会は、79日、EUの東南アジア諸国連合(ASEAN)と東南アジア諸国との将来の関係についての包括的戦略を述べた通信(1)を採択した。それは、人権・良い統治・司法と内務分野・テロとの闘いを含む問題での協力関係を深めるための東南アジア諸国との二国間協定を提唱している。また、地域貿易アクション・プランとして、広範な分野の貿易・投資・規制問題での両地域間の協力を緊密化する地域間EUASEAN貿易イニシアティブ(TREATI)も提案、これにより、現在のWTO貿易交渉ラウンドが成功裏に完結した後に自由貿易協定(FTA)を真面目に考えることも可能になるとしている。特に、FTA締結の可能性に言及したことは大きな反響を呼んでいるようである。

 欧州委員会は、従来、目下のWTO貿易交渉の成功を最優先し、一部の東南アジア諸国によるFTA締結の呼びかけには慎重な態度を貫いてきた。WTO交渉を最優先するという基本的立場が変化したわけではない。ただし、経済・貿易関係の一層の緊密化は望むが、FTAは考えないとしてきたことからすると、FTAに多少積極的になったとは言えよう。欧州委員会は、やはり多国間交渉・協定を優先してきた米国が一気に二国間交渉・協定に向けて走り出した状況のなかで、FTAの増殖が異なる基準を世界中に氾濫させ、これに対応するためのビジネス・コストや無数のFTAを管理する行政コストを高めることだけでなく、真に世界を分断と対立に追い込むことを恐れてきたし、恐れているように見える。例えば、遺伝子組み換え食品・作物(GMO)の貿易の基準をめぐる米欧の激突は、米欧の対立を世界規模の対立に拡大しつつある。米国が、特に途上国を対象に、FTA等を通じて自国基準を世界に強要しようとする動きが強まっているからである(2)。

 この際、FTA締結の可能性に言及したという新しさよりも、WTO交渉が「成功」したのちにASEANとのFTAを考える可能性が生まれるとしていることの方に注意したいと思う。その場合には、様々な基準が一定レベルの統一性を獲得、FTAによる分断の可能性がそれだけ少なくなるからである。欧州委員会通信は、考えられるFTAが「WTOプラス」の原則に基づくとしている。米国を始めとする世界の潮流は、WTO交渉の迅速な「成功」が期待できそうもないことから、FTAに向かって一気に走り始めたようである。潮流に乗り遅れることで不利益を蒙ることへの恐れが、この流れをさらに加速している。この動きは、「WTOプラス」ではなく、「WTO代替」を原則としているから危険なのである。EUがこのような動きに歯どめをかける強大な力となることを期待したい。

(1)Communication from the Commission:A New Partnership with South East Asiaendefr
(2)EU:GMO新規則に前進、GM世界戦争は不可避,03.7.3