農業情報研究所

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米国・中央アメリカ諸国、自由貿易協定交渉開始へ

農業情報研究所(WAPIC)

03.1.10 

 1月8日、米国通商代表・ロバート・ゼーリックとコスタリカ、エル・サルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグアの閣僚が米国・中央アメリカ自由貿易協定(CAFTA)に関する交渉の開始を発表した(USTR:United States and Central American Nations Launch Free Trade Negotiations)。今月27日にコスタリカで実務レベルの交渉を開始、市場アクセス、投資とサービス、政府調達と知的所有権、労働と環境、紛争処理のような制度問題にかかわる五つの交渉グループが今年中に9ラウンドの交渉を行い、年末までの妥結をめざす。

 この交渉は、地域貿易協定の推進によって米州自由貿易協定(FTAA)やWTOドーハ・ラウンドというより広大な貿易自由化交渉の進捗に向けて圧力をかけるという米国の貿易自由化戦略の一環をなす(参照:米国との自由貿易協定調印に向けて諸国が勢ぞろい)。ただし、協定は中央アメリカ諸国の開発戦略の重要な一環もなすようだ。交渉開始発表の会見の席で、米国通商代表・ゼーリックは、この協定がこの地域に欠けているデモクラシーと繁栄の両方を強化するとともに、地域自体が開始した地域統合を促進し、また米州自由貿易協定に関する米国にとって死活的に重要な作業を補完すると述べている。

 交渉開始発表と同時に、中央アメリカ諸国がグローバル経済のなかで競争できるようにするための能力改善の多数のプログラム(コンピュータと旅行のための基金、貿易交渉への市民参加の強化、科学的食品安全監視システムの強化への支援、環境に優しい生産の促進のためのプログラムなど)も発表された。

 また、米国産豚肉・鶏肉・酪農製品の輸入禁止のような問題に焦点を当てる衛生植物検疫問題にすぐに取り組むためのフレームワークについても合意された。

 交渉を通じ、ブッシュ政府は、電子商取引を含むモノとサービスの市場アクセスの広範な自由化、非関税障壁の除去、科学的食品監視システム、知的所有権と投資家の強力な保護、政府規制・調達の透明性の強化、労働者と環境を保護する能力の強化、有効な紛争処理メカニズムを追求する。

 ロイター通信の報じるところでは(US, Centam Countries Start Free Trade Negotiations,Reuters,1.8)、米国産業界は、協定が米国の農産品その他が直面する関税を廃止するのに加え、5ヵ国とのサービス貿易の増加や米国映画・音楽・書籍の海賊版からの保護の強化につながり、既に協定を結んでいるカナダ、メキシコの優位も消し去ると歓迎している。しかし、競争激化を恐れる米国砂糖同盟は砂糖が協定から除外されなければ反対すると警告を発し、米国繊維製造者協会も厳しい「原産地ルール」や米国の失業を減らすためのその他の条項を望んでいるという。ただし、Financial Times紙は、米国繊維産業は、中央アメリカ諸国に工場を移し、米国に逆輸入する方向に傾くだろうから、協定はこの業界の支持を得られようと言う(US in ambitious set of talk for free trade deals,1.9,p.5)。

 他方、多くの中央アメリカ諸国の農民は巨額の補助金を受け取る米国農民との競争を恐れており、サルバドル経済相は砂糖、柑橘、スイカ、ツナなどの「輸入センシティブ」な品目では苦しい戦いになることを認める。しかし、米国で生産されないバナナやコーヒーのような多くの農産品を生産するこの地域と米国は、概して農産物貿易では補完的関係にあると言っているという(上記ロイター通信の記事)。

 米国の貿易自由化戦略は着々と成果をあげつつあるようにみえる。先頃はチリとの自由貿易協定交渉が妥結した(米国、チリ、自由貿易協定で合意:二国間協定はブッシュ政府の特別の焦点)。今月はモロッコとの交渉も開始され、来月には南部アフリカ関税同盟との交渉も開始されるだろうし、その先にはオーストラリアとの交渉も予定されている。しかし、これらの交渉が順調に進むかどうか、なお予断はできない。昨年11月にほとんど合意に達したと発表されたシンガポールとの自由貿易協定交渉も、投資をめぐる食い違いが最後のハードルとなって、未だに最終的妥結に至っていない(米国、シンガポールのと自由貿易協定に希望)。オーストラリアとの交渉は、農産物の扱いをめぐる対立で難航を極めるであろう(オーストラリア:外相、米国との協定に自信)。

 関連ニュース
 
U.S. Begins Talks for Trade Pact With Central Americans,The New York Times,1.9