メキシコ:自由貿易は貧困軽減に失敗

農業情報研究所(WAPIC)

03.3.23

 3月22日の「ワシントン・ポスト」紙が、北米自由貿易協定(NAFTA)による貿易自由化にもかかわらず、メキシコの貧困が一向に改善されない情況を伝えているTrade Brings Riches,but Not to Mexico's Poor,washingtonpost.com,02.3.22。以下はこの記事の要旨である。

 メキシコの4代の大統領が、同国は第三世界の地位を脱しつつあり、米国との自由貿易協定は国を豊かにすると請合ったが、過去20年間に貧困層の数は急増した。メキシコ政府と国際機関によれば、現在、貧困層の割合は50%ほどで、1980年代初期と変わらないが、人口は7千万人から1億人に増えたから、貧困層人口は1千900万人増えた計算になる。メキシコ人のほぼ4人に1人、2千400万人が、極度に貧しく、適量の食糧を得られない層に分類される。先週、フォックス大統領は、貧困を「メキシコに立ちはだかる最大の問題」と呼んだが、彼の政府は1億国民のうちの5千400万人が基礎的必要を満たせない貧困生活を送っていると推定する。

 その一方で、メキシコは豊かにもなった。経済規模は世界9位に成長、NAFTA以来、貿易量は3倍ほどに増え、イギリス、韓国、スペインを凌ぐに至った。観光客も増え、世界のトップ・テンのヴァケイション国ともなった。

 専門家は、この逆説的状況の要因として、1980年代以来の二度の経済危機、熟練の欠如により労働者を低賃金に追い込む公教育システムの弱体、最貧層から略奪する政府の何十年にもわたる腐敗、人々が家の購入や小企業の立ち上げの金も得られない銀行システム、投資家をためらわせる怒れる農民やアナーキストのイメージなどをあげる。

 しかし、はっきりしてきたことは、自由貿易が貧困から脱出させるのに失敗したということである。1980年代以来の歴代大統領は、すべてメキシコ市場の開放、小さな政府、農業と工業への介入の削減を唱導してきた。1990年代の二人の大統領に仕えたスポークスマンのGuerra氏は、「自由市場政策は貧困軽減に何も貢献しなかった」と言う。そのような政策は上流階級を助け、貧富の差を広げた。いくつかの研究は、最も豊かな10%の者が国の金融資産・不動産の半分ほどを支配していることを示している。

 極度の貧困層の大部分は農村地域に住み、政府の数字によれば、農村地域メキシコ人の40%以上が一日1.40ドルしか稼げない。その結果、人々は船が火事になったかのように農村を脱出している。メキシコ農村人口は50年代の半分以下に減り、政府の調査では一日に400人から600人が都市や米国に逃げ出している。

 農民組織指導者や多くの政治家は、問題の大部分は、手厚く補助され、技術的に進んだ米国農民と競争できないメキシコ農民を破産させたNAFTAのせいだとする。大部分のエコノミスト、アナリストは、NAFTAはマキラドーラ(米国・メキシコ国境沿いの保税加工区)や工場労働者、最大規模の農場に恩恵を与えはしたが、既に衰弱している小農民を一層痛めつけたと同意する。

 1980年代から、政府は、一部は財政危機のために、一部は自由市場が農業部門を強化すると信じたために、農村への補助金・援助を撤収し始めた。灌漑・収穫物貯蔵施設・政府農業研究・肥料の資金は、実質ゼロとなった。価格支持は減らされた。メキシコ農村専門の一エコノミストは、農村への政府援助は1982年以来95%減ったと言う。同時に、メキシコの最も重要な作物であるコーン、ビーン、コーヒーの価格は、世界の生産が増加したために低下した。今年初め、怒れる農民の運動が高揚すると、大統領は「国民的対話」を組織した。政府は、現在、彼ら向けたプランを策定しつつある(参照:メキシコ農民、NAFTA再交渉を要求、何のための自由貿易協定?,03.1.22;メキシコ農民:NAFTAの見直し抜きの合意はない(03.3);メキシコのコーン小農民は何故飢えるのか(03.3))。

 貧窮者が農村を放棄するから、都市の貧困が増加する。メキシコ・シティでは、数千の男女・子供が街角で乞食をし、橋の下や公園のバラックで眠る。政府官僚は、彼らの行き場がないから、通常は土地侵略を無視している。フォックス大統領は、1月のダボス世界経済フォーラムで、市場の合理性だけでは貧困問題の解決に十分でないと述べた。フォックス政府に促がされた民間の小額融資機関が、手作りの衣料品や手工芸品などを販売しようとする貧しい人々に僅かな額を貸している。しかし、これらの融資の恩恵に与る者は僅かである。政府自身には貧困への新たな挑戦のための金がほとんどない。過去2年の間、経済成長はゼロか、ゼロに近く、夥しい数の職が失われた。

 来月、政府は、都市の貧困と戦うための新たなプログラム・「ハビタット」を始動させる。これは施しを与えるというより、登校や診療所に来ることへに金銭的報償を与えるもので、人々に働くことも要求する。目玉はシングル・マザーが仕事を見つけ、続けるのを助けるための千ヶ所の保育所を建設することである。批判者は、フォックスの焦点は、彼の選挙基盤の都市にあると言う。夏には議会選挙が控えている。

 1ヵ月前にコーンを栽培する村からメキシコ・シティに移住し、二人の子供を抱えてキャンディーを売り歩く若いカップルは、そんなことには無頓着、何か食べるものが欲しいだけだ。彼らは、良いときには1ヵ月に100ドル稼ぐ。月に70ドルの一間の部屋代を払うと残りは30ドルである。十分に食べることはできないし、子供にはぼろしか着せられない。彼らに政府の恩恵はない。都市での生活は厳しい。それでも、村には決して戻らない。今の方がまだましだと言う。