メキシコ政府、新たな自由貿易協定(FTA)は結ばない

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.115

 メキシコは1990年代初頭から精力的に自由貿易協定(FTA)を追求してきた。米国・カナダとの間の北米自由貿易協定(NAFTA)を手始めに、99年にはチリ、2000年にはEU15ヵ国(来年は25ヵ国に膨れ上がる)、01年には欧州自由貿易連合(EFTA)諸国との協定を発効させた。アルゼンチン、シンガポールとの交渉は停滞しているが、さらにラテンアメリカ6ヵ国や日本とも交渉を開始、その他のいくつかのアジア太平洋諸国も関心を示している。今月4日には韓国とのFTA共同研究の開始にも合意した。

 だが、メキシコ産業界は既存協定の消化さえできていないのが実情だ。メキシコ政府は、「これら協定の下で得られるはずのすべての便益を活用できなかった」というビジネスリーダーの要請を受け、進行中の日本との交渉、及び米州FTA(FTAA)交渉を除き、当面、新たな協定は結ばないという方針を明らかにした。Dow Jonesの報道(*)によると、カレナス経済相が、記者会見で、「我々はメキシコの発展段階では十分なFTAを持っていると考える」と語った。ただし、政府は、WTOやアジア太平洋協力会議(APEC)における多国間交渉による協定はなお重視するという。

 この報道は、産業界が2年から3年の「休息」を要求していると伝えている。新たな協定の「モラトリアム」を要請する団体の一つである「メキシコ外国貿易会議」のカルロス・ロハスは、新たな協定を急いでもすべての機会を消化する時間がないから産業界には不利益になるだけ、相手国からのメキシコへの輸出は増えるが、メキシコからの輸出を増えない、「日本との協定に成功すれば世界の三大経済と協定を持つことになる。当面はそれで十分だ」と語っている。

 昨年のチリへの輸出は2億5,860万ドルで、1993年の2億ドルから僅かに増えたに過ぎないが、同じ期間にチリからメキシコへの輸出は1億3,000万ドルから10億ドルに増えた。昨年のEU15ヵ国への輸出は52億ドルで、99年から1,200万ドル増えただけだが、EUのメキシコへの輸出は37億ドルから164億4,000ドルに急増した。

 メキシコ政府は、日本との交渉でも容易な妥協はできない状況に置かれていると推測される。

 *Mexico Halts Free-Trade Pursuit On Corp Leaders' Request,03.11.13

農業情報研究所(WAPIC)

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