米豪ＦＴＡ交渉合意、今後の自由化交渉を象徴―米国砂糖保護は不変
04.2.11
2月8日、越年した上にこの2週間にわたり続けられてきた米国とオーストラリアの自由貿易協定（FTA）交渉がようやく妥結した。交渉がここまでもつれた主因は、厚く保護された米国の砂糖・牛肉・酪農品市場が開放されない限り協定に調印しないとオーストラリア政府が頑強に主張してきたからである。選挙の年、米国は実質的な譲歩をするつもりはない。オーストラリアは、最終的には米国砂糖市場の開放に交渉の成否をかけた。だが、米国砂糖産業は最も強力な農業圧力団体の一つである。それにかかわる個人と政治活動委員会が共和・民主両党に提供した政治資金は、90年以来、2千万ドル（20億円超）にのぼる。ブッシュ政府が応じるはずがない。決着は、ブッシュ大統領との首脳会談でのハワード首相の政治的決断に委ねられた。首相は米国の対イラク戦争を強く支持、現在もイラクに兵士を送っている。何があっても対米関係を損なってはならないというのが彼の外交姿勢だ。2週間にわたり連綿と続いた交渉は一体何のためだったのか。結局は国民・農民への固い約束に反し、農業に関しては何の譲歩も得られないままに合意を表明した。
砂糖に関しては、オーストラリアに対する輸入割当は全く拡大されず、現在と同じ8万7千トンにとどまり、関税もまったく削減されない。牛肉については、米国は18年という気の遠くなるような長期間をかけて、割当を18.5％だけ増やし、関税と割当を廃止する。酪農品については、米国は割当廃止を拒否、割当量は直ちに倍増させるが、それでもこれは米国酪農品市場の0.2％に相当するに過ぎない。
この合意が象徴することは、米国の貿易自由化戦略が今後次々と実を結ぶだろうということではない。逆に、それはますます難しくなったということだ。今年初め、米国はＷＴＯ全加盟国にドーハ・ラウンドの期限内妥結を求める書簡を送った。オーストラリアとのＦＴＡ合意を得て、ゼーリック通商代表は、ラウンド復活を促すための世界行脚に出た。だが、その成功のカギを握る米国の農業保護削減の見通しが完全に消えたのだから、成功はおぼつかない。
これは今後予定されている多くの国とのＦＴＡ交渉でも同様であろう。西半球全体をカバーする米州自由貿易協定（ＦＴＡＡ）交渉は完全に行き詰まりの様相を見せている。先週末のメキシコ・プエブラでの交渉では、米国が主導するグループとブラジル・アルゼンチンが主導する南米共同市場（メルコスール）の間の溝は少しも縮まらなかった。来るべき数週間の交渉で、期限とされる今年中の合意が可能かどうか、それとも米国主導のグループだけの合意に進むかどうかが決まるだろう。ブラジルは、米国が主張する知的所有権、政府調達、サービス、投資に関する協定の交渉に強く抵抗してきた。だが、今や農業補助金とすべての商品の関税の大幅削減に最大の焦点を当てている。米国は、それは非現実的と言い、ドーハ・ラウンドに委ねる立場を崩していないし、崩せないだろう。世界行脚に出るゼーリックに対し、砂糖産業団体は、砂糖問題はＦＴＡでは取り組めない、ＷＴＯで取り組まねばならないとメッセージを送った。米国通商担当官は、ＦＴＡＡ交渉が停滞するなら、より少数のグループで包括的協定を追求する、これを妨げるものは何もないと公言している。
やはり米国とのFTA交渉にかかわる南アフリカの交渉担当主任・カリム氏も、米国農産物市場の開放と農業補助金削減は最大の交渉目標であり、オーストラリアの前例に従ってはならないと警告を発している。米国のその他途上国とのFTA交渉でも、オーストラリアとの協定は悪しき前例として障害となるであろう。
関連情報
米国通商代表部：Press Release:U.S. and Australia
Complete Free Trade Agreement:Trade Pact
With Australia Will Expand U.S. Manufacturing Access to Key
Pacific Rim Market
同：Transcript
of press conference by USTR Zoellick and Australia's Minister for
Trade, Mark Vaile, on conclusion of FTA negotiations, in
Washington DC
オーストラリア外務貿易省：Free
Trade Agreement with the United States
Region-wide agreement in doubt as
trade talks stall over tariffs,Financial Times,2.10.
US-Australia Trade Deal a Lesson for SA,Business
Day (Johannesburg),2.10
農業情報研究所（WAPIC）