米国・モロッコ、自由貿易協定(FTA)交渉妥結

農業情報研究所(WAPIC)

04.3.4

 3月2日、米国とモロッコの自由貿易協定(FTA)交渉が合意に漕ぎつけた(USTR:U.S. and Morocco Conclude Free Trade Agreement: Morocco Joins Jordan as Second Muslim Nation With U.S. FTA; Another Step Toward Middle East Free Trade)。昨年1月に始まった交渉は年内妥結を目指していたが、農産物市場開放に対するモロッコの抵抗で越年していた。モロッコの農業は、雇用で45%を占め、GDPの15%前後を生み出す国にとっての重要産業である。巨額の補助金を受け取る米国小麦産業にフリーハンドを与えればモロッコ生産者は競争に太刀打ちできす、国全体の雇用に与える影響も大きい。そのために、米国のテロ撲滅戦略に同調、米国好みの「改革」路線を走ってきた親米政府も、国民の離反を恐れた。国民を懐柔するために、農業者教育、土地法改正など、米国との競争に備えた農業競争力強化の戦略を練り上げる一方、米国との容易な妥協を拒んできたのである。

 モロッコの抵抗は一定の成果を上げたようである。基幹作物である小麦については、モロッコの国内生産規模に応じて調整できる関税割当が合意された。モロッコ−EU協定におけるのと類似の制度である。牛肉と鶏肉の輸入割当も温存された。ただ、米国が何も得なかったわけではない。これらの輸入割当は拡大された。コーン、ソルガム、大豆の関税率は大幅に引き下げられるか、撤廃される。加工食品、ナッツ、園芸産品でも輸出機会が大きく増えるという。米国小麦協会は、デュラム小麦以外の小麦にモロッコが課す135%の高率関税がゼロにならなかったことに失望を表明したが、割当は10年でEUと同じ量になると妥結を歓迎している。アメリカ大豆協会(ASA)も関税削減を歓迎している。

 農業以外の分野では、工業品・サービス・デジタル製品の市場アクセス改善、米国投資の保護、開放的で公正な政府調達、労働・環境保護の強化などが合意された。

 95%の工業製品の関税が即時撤廃され、残りは9年以内に撤廃される。サービスについては、米国の銀行、保険、電気通信、オーディオヴィジュアル・サービス、コンピュータ及び関連サービス、流通、建設・エンジニアリングなどに新たなアクセスが提供される。ソフトウェア、音楽、ビデオなどのデジタル製品には最高レベルの保護と内国民待遇が与えられ、米国の特許・商標・著作権・企業機密の保護は米国の他の二国間貿易協定並み高基準に従う。米国の投資家は予測可能な法的枠組みで保護され、政府調達に関しては腐敗防止措置が設けられる。両国は国内労働・環境法の有効な執行を約束し、これら分野での協力のメカニズムを設ける。

 米国諸企業は当然ながら妥結を歓迎しているが、この小国との協定がもたらす利益は知れている。この協定は大きな意味をもち得るとすれば、それは政治的なものだ。交渉妥結を受け、ロバート・ゼーリック米国通商代表は、「モロッコは米国の善き友好国だ。このFTAは米国が寛容で・開放的で・一層繁栄するムスリム社会を支持することを固く約束する強力なシグナルを送る。私は、中東・北アフリカの他の国がこの協定を詳しく研究し、米国との経済関係を前進させるためのモデルと考えるように望む」と述べた。

 昨年5月、ブッシュ大統領は、2013年までに中東自由貿易地域を創設する計画を発表した。目下の米国の最優先課題であるテロ撲滅を達成するための要の手段として提起されたものだ。モロッコとの協定は、まさにこの戦略の第一歩をなすものである。だが、地域で最も親米的な国との交渉さえも順調には進まなかった。なんとか妥結に漕ぎつけたものの、遠大な目標の達成の見通しが開けたわけでは決してない。モロッコとの交渉は、むしろ目標達成の困難を印象づけただけではなかろうか。イラクの武力「解放」は制御不能なカオスを生み出しただけだ。米国のFTA戦略は、このカオスを中東・北アフリカ全体に拡大する恐れさえある。

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