WTOルール交渉グループ 地域貿易協定のWTOルールとの整合性評価手続に合意

農業情報研究所(WAPIC)

06.7.13

  ドーハ・ラウンドのWTOルール交渉グループが、自由貿易協定(FTA)や関税同盟等の地域貿易協定(RTA)がWTOのルールに合致するかどうかを評価する手続(WTO透明性メカニズム)に合意した。

   Lamy welcomes WTO agreement on regional trade agreements,7.10
   http://www.wto.org/english/news_e/news06_e/rta_july06_e.htm

 WTO(またはその前身としてのガット)の法的基盤をなす「関税及び貿易に関する一般協定」(ガット=GATT)、「サービス貿易に関する一般協定」(ガッツ=GATS)は、最恵国待遇を基本原則として掲げるが、限定された国・地域に特恵待遇を与えるRTAを一定の条件の下で例外的に認めている(GATT第24条、GATS第5条、及び途上国間の特恵的物品貿易を認める1979年のガット決定=授権条項)。そして、RTA、あるいはRTAにつながる中間協定は、その発効に先立ち一般協定締約国の審査に服するものとされている。

 ところが、この審査に際してはRTA締約国・地域と域外国の意見が厳しく対立するのが常で、審査報告または勧告が合意に達することはほとんどなかった。結果として、ほとんどのRTAが、正規の承認を得ることなく既成事実化し、発効してきた。

 この状況を改めるために、ウルグアイ・ラウンドでは、RTAが満たすべき条件・基準の明確化を図り、個々のRTAごとに設立される作業部会による審査の制度を改め、一般理事会により新たに設立された地域貿易協定委員会が組織だった審査を行うことも合意された。

 それにもかかわらず、加盟国間の厳しい意見の対立で、この委員会自体が機能停止状態に追い込まれている。WTOによれば、これまでに通報されたRTAは197に上るが、承認を受けたのはたった一つ、チェコ共和国とスロバキアの間の関税同盟にすぎない。

 そうしたなかで、RTAは急増傾向にある。過去10年ほどの間にRTAは倍増した。世界の貿易の少なくとも半分がRTAの下で行われているという。ドーハ・ラウンドの停滞は、この趨勢をますます加速するであろう。

 WTOの2003年貿易報告は、WTOルールとの整合性を欠くRTAの増殖は、貿易転換(より競争力のある域外国からの輸出が競争力の劣る域内国からの輸出によって代替されること)の危険性をほぼ確実に高め、様々な原産地規則や基準の適用によって国際貿易を一層複雑で、コストのかかるものにし、貿易ルールの透明性を損ない、WTOの基本原則の脅威にもなると危機感を表明した(WTO世界貿易報告、地域貿易協定に懸念,03.8.22)。

 新たな合意は、WTO加盟国が漸くこのような危機感を共有し始めたことを意味するのだろうか。新たな「透明性メカニズム」はドーハ・ラウンドが完了するまで暫定的に実施されるが、このメカニズムの下では、いかなるRTAも速やかにWTOに通報され、WTO加盟国は通報されたRTAをWTO事務局による事実分析を基に審査される。

 GATT第24条とGATS第5条に基づくRTAは地域貿易協定委員会が、授権条項に基づく途上国間のRTAは貿易開発委員会が審査する。加盟国がその決定を検討、必要ならば修正も行う。このメカニズムは、ドーハ・ラウンドの結果全体の一部として採択される恒常的メカニズムに置き換えられるという。

 ともあれ、ほぼ完全にストップしている審査が動き出すことにはなりそうだ。しかし、それで恣意的RTAの氾濫に歯止めがかかるかどうかは分からない。とりわけ、近年急増傾向にある先進国ー途上国間RTA交渉においては、途上国が望まない協定を強要される傾向が強い。その監視の強化が不可欠と思われる。