農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2011年5月30日

日・EU経済連携協定交渉開始に合意?事前協議で破談の恐れも

  5月28日、ブリュッセルで行われた日本−EU首脳会議(サミット)で、日本の菅直人首相とEUのファンロンパイ首脳会議常任議長、バローゾ欧州委員会委員長が、「関税、非関税措置、サービス、投資、知的財産権、競争、公共調達を含む双方が関心を共有するすべての問題に取り組む深い、また包括的な自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)のための交渉を開始することに合意」、「この目的で、両者は交渉の範囲(scope)と野心のレベル(level of ambition)を決めるための論議を開始することを決めた」。そして、この「スコーピングはできるだけ早く実行される」という。

 20th EU-Japan SummitJoint Press Statement,European  Commission,11.5.28
  第20回EU日定期首脳協議 ブリュッセル,2011年5月28日 共同プレス声明 (仮訳)  日本外務省 11.5.28

 まず第一に、日本のマスコミが「予備交渉」などと呼ぶ「交渉の範囲と野心のレベルを決めるための論議」は、EU側に言わせれば決して「交渉」ではない(実際、声明は交渉=negotiationsではなく、論議=discussionsの言葉を使っている)、交渉入りの是非を見極めるための情報収集程度のものでしかないことを知っておく必要がある。日本政府がTPP交渉に参加するかどうかを決めるための事前の情報収集と同じような意味しかもたないということである。

 その際、日本側の最大の関心事項である自動車や電気電子製品の関税はほとんど問題にならないだろう。韓国と異なり、これらの日本側の関税はすでにゼロになっている。これらの関税撤廃は、EU側にとっては何の意味もない。それは、「双方に貿易とビジネスの機会を与える」「野心的で包括的な協定」(サミット終了後のバローゾ委員長の所感=José Manuel Durão Barroso President of the European Commission Remarks following the EU-Japan Summit EU-Japan Summit Brussels, 28 May 2011)の構成要素とはならない。

 となれば、他の分野で日本側が大幅譲歩の姿勢を見せないかぎり、交渉はなり立たない。とりわけ難航が予想される分野は、農産物・食品関税撤廃に加え、1995年以来続いている「規制改革対話」の懸案事項である投資、政府調達、情報通信技術、航空輸送、自動車、医薬品、ワクチン、医療機器、化粧品、食品安全と農産製品(食品添加物とフレーバー、牛肉製品輸入=狂牛病規制、地理的表示、農薬規制、リステリア菌に関する要件、加工食品成分の原産地表示、有機認証など)に関する規制が含まれよう。

 政府の一存では何ともならず、国会やその他の専門諸機関の合意を要するこれら分野に関する「論議」が、できる限り早期にEU側の満足できる情報を提供できるとは考えられない。管総理得意の独断も、ここでは通用しないだろう。何年かかるか分からない「論議」の間、なお首相にとどまっているとも考え難い。