農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2011年11月23日

韓国議会 韓米FTA強硬採決 韓国経済への影響は不透明 輸入増が輸出増を上回る恐れ

  わが国メディアも大々的に報じたとおり、韓国議会が11月22日午後、与党ハンナラ党の強硬採決で韓米自由貿易協定批准案を採決した。協定実施はなお残る韓国国内の手続きの完了を待たねばならないが、韓国政府は来年1月1日からの 実施を目指すという。韓国の一部メディアは、「韓国が欧州連合(EU)に続き、米国とも自由貿易が可能となり、韓国は日中との貿易戦争で優位に立った」と鼻高々だ。

 韓米FTA:米国との貿易自由化、日中をリード 朝鮮日報 11.11.23

 ただ、韓国の経済・社会が、全体としてどれほどの利益を得るかは不透明だ。全体としてみれば、不利益(損害)の方が大きいかもしれない。「日中との貿易戦争で優位に立った」というメディア自身、「韓米自由貿易協定(FTA)が韓国国会で批准されたことで、市場開放による打撃を受ける製薬業と農漁業は被害が避けられない見通しとなった。韓国の製薬業界は、知的財産権保護義務の強化で、後発医薬品(ジェネリック医薬品)や改良新薬(特許で保護を受ける改良後発医薬品)を開発する余地が狭まる。競争力で劣る農漁業分野は、特に大きな被害が見込まれ、政府の大規模な支援が行われる見通しだ」と言う。

 韓米FTA:農畜産物、15年間で8500億円被害 同上

 同紙の別の記事によると、「国策シンクタンクは、国内総生産(GDP)の規模が14兆3000億ドル(世界の23%)を超える米国とのFTAで、今後15年間に35万人分の雇用が生まれ、年平均で輸出は13億ドル、貿易黒字は1億4000万ドル拡大すると予想している。産業界は韓米FTAによる影響を業種別に分析するなど、対応に追われている」。

 自動車、石油化学、繊維は恩恵に与り、電子・電機、鉄鋼、建設も一部は恩恵に与るが、「製薬業界は、韓米FTAによる関税撤廃、特許延長などの影響で年間1400億―4900億ウォン(約94億―329億円)の販売損失が出る見通し」、「金融分野では、韓国で銀行、保険会社、資産運用会社など金融機関の設立と保有が完全に自由化されるため、米国企業の韓国市場進出が増えるとみられ」、「農畜産物は既に輸入に依存している品目は関税が即時撤廃され、牛肉(15年)、豚肉(10年)など一部センシティブ(重要)品目は段階的に関税が撤廃される。このほか、みかんの収穫期には関税が維持されるオレンジのように、一部例外品目もある。このように、時間的な猶予や例外条項はあるが、全体として農畜産物への打撃は避けられない」と言う。

 韓米FTA:自動車輸出は7億ドル増、食品・製薬は打撃 同上

 こうなると、「今後15年間に35万人分の雇用が生まれ、年平均で輸出は13億ドル、貿易黒字は1億4000万ドル拡大する」という予想の根拠も怪しくなる。

 物品貿易に限っても、2011年の実行関税率(貿易量加重平均)は、韓国が全体で7.9%、農産品で99.8%、非農産品で3.5%、米国がそれぞれ2.1%、4.3%、2.0%だ。これら関税がすべて撤廃されるとすれば、韓米どちらへの恩恵が大きいかは明らかだ。

 WTO:World Tariff Profiles

 すでに発効しているEUの例が一つの参考になる。EUの上記関税率は、3.2%、10.1%、2.7%である。やはり韓国を大きく下回る。他方、韓国のEUへの輸出は船舶、自動車、自動車部品、ITエレクトロクス、白物家電、電気通信機器、石油化学製品に特化している。関税撤廃の利益が全体として大きいのはどちらだろうか。

 EU‐韓国FTAは今年7月から実施された。全体として増えたのはEUから韓国への輸出(韓国のEUからの輸入)である。下の図は、韓国の2011年の月ごとの対EU主要国貿易収支が前年同月に比べてどれだけ増えたのか、あるいはどれだけ減ったかを示したものだ。対ドイツを除けば、今年前半の貿易収支は、概ね前年同月を上回っていた。ところが、FTAが実施された7月以降は、軒並み前年同月を下回っている。年前半と見事な対照である。FTAの影響と確認するためには一層の調査が必要だが、FTAの韓国経済・雇用へのマイナス影響を示唆している。対米FTAの影響も、決して楽観はできないだろう。