農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2012年7月19日

欧州委 日本とのFTA交渉開始を提案 EU自動車産業は迷惑千万

  欧州委員会(EU政府)が7月18日、日本との自由貿易協定(FTA)交渉開始への同意をEU加盟国に求めると決定した。交渉開始権限を委員会に与える指令を閣僚理事会に提出するという。

 欧州委によれば、日本は中国に次ぐアジア第二のEUの貿易相手国で、EUと日本のGDPは、合わせて世界のGDPの3分の1を占める。日本とのFTAはEUのGDPを0.8%、EUの日本への輸出を32.7%押し上げる。他方、この協定で日本のEUへの輸出は23.5%増え、EUに42万の新たな雇用を創り出す。

  カレル・デ=ヒュフト貿易担当委員(大臣)は言う。

 「今後20年の経済成長はアジアから来ることになるだろう。このとき、日本を見過ごしていては、わが貿易戦略は深刻な誤りを犯すことになろう。われわれの優先交渉事項は、例えば自動車部門における日本市場の非関税障壁に挑み、また日本の公共調達市場へのEU企業のアクセスを可能にすることだ。交渉開始から1年以内に日本が肝要な非関税障壁を取り払わねければ、われわれは交渉を停止する」

 欧州委はEU側の関税削減に平行しての日本の非関税障壁の除去を求め、非関税障壁と鉄道及び都市輸送について交渉開始から1年以内に特定された進捗が実現しなければ、交渉を停止するということだ。

 Commission proposes to open negotiations for a Free Trade deal with Japan,European Commission,12.7.18

  日本政府同様、EU政府もEU‐日本FTAに前のめりだ。EU内でも、化学・飲食品・サービス産業などは欧州委のこの動きを歓迎している。しかし、自動車業界は強く反発している。

 現在、EUは日本車輸入に10%の関税を課している。他方、日本への外車輸入は無税だが、技術的規制や安全基準などの非関税障壁は高い。欧州メーカーは、FTAで得るところはほとんどないと見る。他方、昨年発効したFTAで、韓国との厳しい競争にも直面している。現代、起亜などの低価格車の輸入が増加、プジョー・シトロエンは先週、フランス最初の自動車工場の閉鎖を発表した。EUの新車登録は今年前半、7%近く減った。フォード社は、深刻な経済危機で市場が縮小するなか、日本とのFTA交渉開始など迷惑千万と言う。

 Brussels to push for Japan trade deal,FT.com,7.18
 (Brussels to push for Japan trade deal,Financial Times,7.18,p.4)
 Ford ‘troubled’ by EU-Japan trade hopes,FT.com,7.18
  (Hopes for EU-Japan deal are troubling,says Ford,,Financial Times,7.19,p.4

 加盟国による交渉開始承認は難航するだろう。

 なお、韓国からの報道によると、昨年7月のEU−韓国FTAの発効以来、韓国の対EU貿易黒字は大幅に減った。自動車・機械・石油化学製品などの輸入が大きく増加する一方、輸出はEU経済の低迷で大きく減ったためという。FTAの経済効果は、まさしく予測しがたい。

 S. Korea's trade surplus with EU plunges after FTA,Korea Herald,7.18