米国、中国アパレル輸入制限へ 鉄鋼紛争も未決なままに

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.19

 ブッシュ政府が中国のニット、ローブ、ブラジャーの輸入制限に動く。これら製品の輸入の年間増加率を7.5%以下に抑える。グラント・アルドナス商務次官が18日に発表した。2年前の中国のWTO加盟協定で合意した特別セーフガード条項に基づく措置で、中国政府と協議に入るという。中国の不公正な競争で大量の雇用が奪われているという南部諸州の繊維業界や議員の不平に応えるものだ。ただし、Gap、Penneyなどの小売業者は消費者価格が上昇すると反発している。

 セーフガードを要求してきたアメリカ製造業者貿易対策連合が提出したデータでは、今年に入ってから9ヵ月の間に、中国から輸入は、綿ブラで53%、人造繊維ブラで78%、ニット製品で39%、綿ガウンで141%、人造繊維ガウンとローブで85%増加している。アルドナス商務次官は、ブッシュ大統領がとりわけ優先した過去の貿易立法に支持を与えた南部の共和党員への政治的報償という批判者の声を一蹴 、過去14ヵ月の中国衣料品輸出の天文学的増加と中国政府所有銀行による国営企業への大量の補助金に対抗するための措置だと主張している。

 アメリカ繊維製造業者協会は、米国繊維産業は1997年以来、250の工場を閉鎖したが、うち50は過去18ヵ月のものだという。過去6年間で20万の労働者が職を失ったが、2002年1月以来の失職者が3万人を占めると、中国製品輸入増加の影響を強調する。

 しかし、この措置は大きな危険も伴う。この発表と直接関係するかどうかは確かとはいえないが、ニューヨークのドイツ銀行AG上級通貨ストラテジストのケネス・ランドンは、米国が貿易制裁を課すごとにドルが弱まる兆候があり、それは同時に米国への資本流入が減る兆候でもあると語っている。商務省の発表はドルのユーロに対する記録的な下落につながった。ニューヨーク市場で、前日の1ユーロ・1.1749ドルの相場は、この日午後2時11分には5月31日の1.1933ドルの記録を更新、1.1937ドルまで落ちた(1)。同時に、中国の同様な対抗措置を誘発する恐れがある。当然ながら、WTOに加盟した中国にもその権利がある。

 米国は昨年3月にEU、日本、中国等8ヵ国・地域を対象に大規模な鉄鋼セーフガードを発動した。WTO紛争処理委員会は今月10日、この措置がWTOセーフガード協定の発動要件を満たしておらず、協定に違反するとする最終報告書を発表した。これを受け、EUは22億ドルにのぼる米国製品を対象とする対抗措置を来月半ばまでに発動すると明言している。ブッシュ政府は、来秋の大統領・議会選を控え、3年で満了する措置の早期撤回に踏み切るかどうかの決断を迫られており、鉄鋼メーカーはセーフガード関税の早期撤回の受け入れに動いているという(2)。来年1月から初めて段階的に関税を削減、満期の2005年3月より前の来年9月に全廃するというのである。だが、EUはあくまでも早期の完全廃止を求めており、妥協する兆しは見えていない。

 それどころか、米国は、セーフガード関税は撤廃したとしても、やはりWTOの違法の判決を受けながら廃止を拒んでいるアンチダンピング関税収入の企業へ還付の制度をさらに保護主義的な方向に改変、輸出国国内価格と輸出価格の差額として計算されるダンピング率の計算にセーフガード関税も含めることを目論んでいる。その分だけ輸出価格は下がり、ダンピング率が高まる計算だ。5%のダンピング率が50%に跳ね上がることもあり得る(3)。大西洋を挟む巨大規模の貿易紛争はエスカレートするばかりであろう。それに太平洋をまたぐ大規模貿易紛争が加わる。「自由貿易」など幻想にすぎないことがますますはっきりするだろう。貿易をめぐる世界戦争が迫っている。

 (1)U.S. Announces Limits on Apparel Imports From China,Bloomberg.com,11.18
 (2)US steelmakers offer concession to EU over tariffs,FT.com-world,11.18
 (3)US may change tariff law to hit steel and timber imports,Financial Times,11.12,p.6;Dumping on trade(Editorial), Financial Times,11.13,p.12

 その他関連ニュース
 U.S. Moves to Limit Textile Imports From China,The New York Times,11.19 

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