農業情報研究所


イギリス:圃場実験GM作物に抗生物質抵抗性遺伝子

農業情報研究所(WAPIC)

2002.8.17

 8月15日、イギリス環境食料農村問題省(DEFRA)とスコットランド行政部(Scotish Executive)が、バイオテクノロジー企業・Aventis CropScience社から、圃場作物実験に使われている遺伝子組み換え(GM)油料種子菜種の種子に二つの抗生物質に対する抵抗性を与える遺伝子が含まれているという通報を受けたと発表した(DEFRA Mews Release:Impurities found in Aventis GM rape seed farm scale evalutions 336/02,02.8.15)。この種子は除草剤・グルホシネート・アンモニウム抵抗性のものであるが、種子の2.8%までが抗生物質のネオマイシン、カナマイシンに抵抗性を与える余分な遺伝子(nptU)を含んでいるという。

 この種子は、1999年にイングランドの三つの実験サイト、2000年には六つの実験サイトで播かれており、現在はスコットランドの二つのサイトを含む14のサイトで栽培されている。今年栽培されているものは、数週間のうちに収穫される予定であり、その後廃棄されるという。

 抗生物質抵抗遺伝子は、過去、組み込むべき遺伝子の移転が起きたかどうかの確認を容易にするために、遺伝子を操作する際に広く使われてきた。しかし、この遺伝子が動物や人の中のバクテリアに移転、抗生物質への抵抗性を発達させる恐れから、段階的に廃止するすることが要請されてきた。今回の実験も、このような遺伝子が存在しないことを前提に進められてきたものである。ただ、政府の諮問委員会(ACRE、環境放出諮問委員会)は、二つの抗生物質のどちらも、耐性バクテリアの出現のために人間の医療には広く使われてはいないから、人の健康や環境のリスクはないと言っている。しかし、「地球の友」は、この抗生物質抵抗性遺伝子は、髄膜炎など致命的な病気の治療に使われる重要抗生物質であるゲンタマイシンに対する耐性も与える可能性があると反論している(Friends of the Earth Press Release:BIOTECH BLUNDER RESULTS IN GM TRIAL CHAOS,02.8.15)。

 ともあれ、今回の事件が重大な規則違反の存在を明かにしたことは間違いない。DEFRAも、Aventiceを調査し、告発もあり得ると言い、開発企業が種子が汚染されていないことを保証できないならば、GM作物の商業栽培を凍結すると警告している。しかし、問題は企業だけにあるとはいえない。4月、この企業は定期監査を受けているが、監査官はこの問題を見落としている。それだけではない。3年間にわたり問題が見過ごされてきたという事実は、規制システム全体に重大な欠陥があることを意味する。イギリスだけのことではないが、開発企業が提出するデータを鵜呑みにして、実験許可申請にメクラ印を押すだけという規制のあり方そのものが問われているのではなかろうか。イギリスでは、次週、3年間の実験計画が完了するための播種が始まる。ACREは、それに先立つ完全な調査の実施とこのような事件の再発を防ぐ措置の設置・冬季油料種子が汚染されていないことの保証と検査結果の公表・GM監査の全面見直しを政府に要請した。

 政府がこれにどう応えるかは今後に待たねばならない。ただ、3年間の実験計画を完了、2004年からのGM作物商用栽培を目指す政府は、国民のGM作物に対する懐疑を解こうと、秋からの「公開論争」開始を告げたばかりである(Public to choose issues for GM debate - Beckett 309/02,02.7.26)。今回の事件は、従来から決定的であった国民の政府不信に拍車をかけるであろう。そのなかで、政府は国民をどう説得しようというのだろうか。

 しかし、これはよそ事で済ませられる問題ではない。企業の申請に対して書類審査だけで可否を決定してきたやり方は日本もイギリスも変わらない。安全性に関しては、開発企業のデータを鵜呑みにするのではなく、政府機関が自らの実験によって確かめる必要がある。その際、現在は企業が免れている慢性毒性や長期的影響も調査するのでなければ、消費者の不信を解くことはできないであろう(EUの新規則案は「実質同等」概念に基づく安全性評価の方法を放棄している。→EU:遺伝子組み換え体に関する新規則案,02.7.5)。環境影響に関してもそのようなシステムが必要ではないのか。そのためには、研究・分析体制の整備・飛躍的強化も不可欠である。イギリスの今回の事件を契機に、わが国のGM作物リスク管理のあり方の根本的見直しが進むことになればと念ずるものである。

 関連報道
 GM seed blunder deepens public doubts,The Times,8.17
 Ministers seek guarantees before GM trials restart,Independent,8.17
 GM storm looms as consumers fight shy,Guardian Unlimited,8.17
 GM trial ruined by rogue gene strain,Guardian Unlimited,8.16
 Ministers suspend GM crop-testing,Independent,8.16
 Analysis: Single gene at the heart of the scandal was an antibiotic-resistant relic of early research,Independent,8.16

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