農業情報研究所

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米国:年末までにクローン食品解禁案、食品医薬局が検討中

農業情報研究所(WAPIC)

2002.9.18

 日本経済新聞、朝日新聞等、わが国のメディアは、16日付けワシントン・ポストの報道として、全米科学アカデミーの専門委員会の報告(米国:科学アカデミー、遺伝子操作動物の安全性で報告書,02.8.22)を受けた食品医薬品局(FDA)がクローン食品に対する安全宣言を年内にも出す見通しとなったために、クローン牛からの牛乳やクローン牛・豚の子の肉などが、来年早々にも、米国の店頭に並ぶことになりそうだと伝えている。

 これらの記事が間違っているわけではない。しかし、ワシントン・ポスト紙の当該記事(Cloned Food Products Near Reality: Items Could Reach Shelves by 2003,The Washington Post,9.16)が触れているFDAの関心事項等、クローン食品許可に際して懸念される問題については何も伝えていないので、その点を箇条書きにして補っておきたい。

 ・クローン動物は、その元となる動物の遺伝的コピーであるから、理論的には、それを食べることにより、元となった動物を食べる場合と異なる特別の問題は生じない。

 ・しかし、問題はそれほど明瞭ではない。研究が示すところでは、クローニングは、多少の遺伝子型を、少なくとも僅かに変えるから、それによって肉または乳が影響を受ける小さな科学的可能性がある。予備的比較では、心配はほとんどなさそうであるが、FDAは一層決定的なデータを待っている。

 ・FDAの懸念の一つは、クローニングに出費する育種業者が、多分低カロリー化や乳生産改善のために、動物の遺伝子改変を試みるかもしれないということである。そのような遺伝子操作は、単なるクローニングよりもはるかに大きな潜在的問題を生む(この点については、全米科学アカデミーの報告も、人間消費用に開発される遺伝子組み換え動物においては、遺伝子が他の種の動物から挿入されるときに発現する僅かな新たな蛋白質が、少数ではあるがどれほどの比率になるかは知られていない人々のアレルギーまたは過敏反応の引き金になる可能性が、低レベルではあっても存在すると警告している)。FDAは、遺伝子改変動物が食べて安全であるという完璧な証拠を要求することになりそうである。

 ・残る最大の問題は動物福祉である。大人になるまで生き残ったクローン動物は健康に見えるが、異常な数のクローン動物が胎内または出生後に死んでいるし、妊娠は代理母にとってストレスが多いように見える。動物の受難への懸念は、全米科学アカデミーの報告も深刻な問題として取り上げている。米国動物愛護協会は、工業的農業による大量のクローニングが、今でも支配的になりつつある工場農業への動きを加速すると言う。

 FDAの担当官によれば、FDAは年末までに報告案を出すように懸命に作業を続けているが、報告はブッシュ政府のより上のレベルで見直される必要があり、(許可決定の)タイミングについて育種業者に確たる約束をすることはできないという。ワシントン・ポストの記事の冒頭は、これらの問題がクリアできれば、「クローン牛からの牛乳やクローン牛・豚の子の肉が、来年早々にも、店頭に並ぶ可能性があるcould)」という意味であることに注意を促しておきたい。そのためにこのような記事を掲載することにした。