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モンサント、飢餓撲滅運動開始のブラジルにGMO十字軍

農業情報研究所(WAPIC)

03.2.10

 ブラジル政府は、先月、飢餓根絶のための野心的キャンペーンを開始したが(参照:ブラジル:ルーラ、飢餓根絶運動に乗り出す)2月5日付のFinancial Times紙(1)が伝えるところによると、モンサント社の暫定最高経営責任者・フランク・アトリーが、3月、飢餓根絶には遺伝子組み換え(GM)作物が有益とブラジル政府説得の「十字軍」遠征の旅に出る。

 これまで、モンサント社は、ブラジル政府に対し、同社の販売する除草剤・グリホサートへの耐性を組み込んだラウンドアップ・レディ大豆の承認を何度か求めてきた。1998年には最初の承認を勝ち取ったが、反対する環境団体や土地無し農民運動の訴訟に行く手を阻まれ、未だにブラジルにGM作物を導入させることに成功していない。昨年は、三つの訴訟で一判事が受け入れを認める判決を出したが、他の二人の判事は判定を下さなかった。

 このところ、ブラジルは、GM作物の世界的普及をめざすバイテク企業と、これを阻止しようとするGM反対勢力との攻防の世界的最前線とみなされてきた。GM作物の大規模商用栽培は1996年に始まり、その後急速に拡大、昨年の世界の栽培面積は6千万haを突破したと見られる。その62%を占めるのがラウンドアップ・レディ大豆であり、その大豆栽培面積に占める割合は世界で半分を超え(51%)、米国では75%に達している。しかし、その栽培国は米国とアルゼンチンに限られており、他のGM作物(棉、ナタネ=カノーラ、トウモロコシ)を含めても、GM作物栽培国は十数カ国に限定されている。ヨーロッパのGM作物への抵抗は相変わらず強く、それは、GM食糧援助拒否に見られるように、アフリカ諸国の抵抗も呼び起こしている。インドは、昨年、初めてGM棉を導入したが、その後、承認を求められたGMマスタードについては、強力な国内抵抗勢力の反対もあり、承認を延期している。巨大な人口を養うためにGM技術に大きな期待をかける中国でも、大規模栽培は今のところGM綿に限られており、食用作物でのGM採用はためらっている。

 このように、GM作物は急速に普及してきたとはいえ、なお大きな壁に突き当たり、その世界的普及をめぐる攻防は膠着状態にあると言えよう。そこで、非GM大豆の世界的な大供給国となったブラジルにGM大豆を採用させれば、GM食品に抵抗している市場も、非GM大豆の調達が難しくなり、GM大豆の利用に走らざるを得なくなる。それは、GM作物の世界的普及への突破口となるであろう。これがバイテク企業の描くシナリオであろう。

 Financial Times紙によれば、上記のようなGM作物普及の膠着状態のために、モンサント社の主力商品でラウンドアップやその他の除草剤耐性GM製品の昨年の販売額は24%減り、18億ドルとなった。総販売額も14%減り、経営状態は悪化している。昨年12月には、過去2年間の実績への懸念から、経営最高責任者が辞任に追い込まれた。そのなかで、シンジェンタ社などとの競争で、株価も下落している。

 ブラジルへの「十字軍」遠征は、まさにモンサント社の起死回生策であろう。それは抵抗勢力にとっても正念場となる可能性がある。

 (1)Monsanto takes GM crusade to Brazil,FT com-world,2.5

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