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米国EPA、根きり虫退治の新たなGMコーンを承認

農業情報研究所(WAPIC)

03.2.27

 米国環境保護庁(EPA)は、25日、トウモロコシの最大の害虫である「根きり虫」を殺す毒素(Cry3Bb)の遺伝子を組み込んだ新たな遺伝子組み換え(GM)トウモロコシを承認した。このトウモロコシはMON863と呼ばれ、モンサント社が開発したものである。このトウモロコシの食品としての使用は、20011217日に日本の厚生労働省の食品安全性部会が承認し、続いて米国食品医薬局(FDA)も20011231日に承認している。しかし、商用栽培のためには環境影響を評価するEPAの承認が必要であった。申請から4年、その承認が漸く降りたものである。

 トウモロコシ「根きり虫」は、米国の畑で成長する4種の甲虫の幼虫の総称であり、トウモロコシの根を食害、多大な被害をもたらすことで知られている。年々10億ドルもの所得損失を生むことから「10億ドル害虫」のニックネームも付いている。害虫を殺す毒素を生産するBacillus thuringiensisと呼ばれる土壌細菌の遺伝子を組み込んだ害虫抵抗性トウモロコシとしては、既にコーンボーラーを殺すBtコーンが開発されているが、これは根きり虫には対抗できない。根きり虫退治には、安全性・環境影響の観点から問題の多い有機燐系、カーバメイト系などの殺虫剤を散布するほかなかった。MON863もBtコーンの一形態であるが、これは根きり虫を殺す毒素を生産するという。

 MON863については、他のBt遺伝子を組み込んだコーンよりも毒素蛋白質の発現量が非常に多く、標的外の昆虫への影響も大きくなる可能性があるなど、批判も多かった。しかし、EPA(Press Release[1])は、「この新製品は、生産者に、安全と伝統的殺虫剤への依存を減らすことのできる代替的な非化学的防除法を与える。農薬使用の削減は直接的に環境への便益となり、コーンに化学農薬を施用する人々の農薬への暴露を減らすことになる」と言う。予防・農薬・毒性物質担当EPA長官補のステファン・ジョンソンは、「広範なパブリック・コメントや中立的な科学的審査を含む厳格で、科学に基づく審査のプロセスを通して」、新製品が「人間の健康と環境にとって安全である」と確認されたとコメントしている。EPAは、MON863の便益がリスクに勝ると判断したのである。

 しかし、このように判断されたとしても、根きり虫にBtコーン抵抗性が発達すれば、この判断は逆転する可能性がある。承認に当り、EPAは、この可能性を減らすために、モンサント社に対し、このコーンを栽培する土地の20%に非GMコーンを栽培するように要請した。この「避難地」の昆虫がBt栽培地の昆虫と交雑して抵抗性発達を妨げることができるというのである。しかし、EPAの科学アドバイザー・パネルのメンバーは、この比率を50%とするように要請していた。しかし、半分の面積に非GMコーンを植えねばならないとすれば、農民のGMコーン栽培への意欲は大きく減退するであろう。モンサント社は20%を強く主張、EPAもこれを受け入れることとなった。とはいえ、EPAも、これで大丈夫というモンサント社の主張を完全に受け入れたわけではなさそうである。EPAは、日常的監視とこれらの措置がフォローされるドキュメントを要請し、また最適の長期的抵抗性管理方法が維持されるように、トウモロコシ根きり虫に関する追加的研究を行なうことを要求している。その使用の承認は他のBt製品と同様に時限的なもので、数年の間に再評価されることになる。

 モンサント社よれば[2]、このコーンの種子の販売は今年から始めるが、本格生産は来年からとなる。米国の8千万エーカー(約3200ha)のコーン栽培地のうち、1,2001,500万エーカーでこのコーンの栽培が見込まれるという。米国におけるGM作物栽培では、コーンは大豆、棉に比べて大きく遅れをとってきた。総作付面積に占めるGM作物の比率は、昨年、大豆で75%、棉で71%に達しているが、コーンでは34%にとどまっている。その理由ははっきりしないが、スターリンク事件の影響のほか、根きり虫に効かず、大量の農薬使用が必要とあれば、Btコーン採用に大したメリットもなかったであろう。モンサント社は、EPAの承認が降りれば、コーンボーラーと根きり虫の両方を殺す形質のコーンも販売することを計画している。さらに、将来は、これに除草剤耐性ももたせた製品も供給することになるという。最近のモンサント社の業績低迷は、除草剤耐性作物への圧倒的な依存によるといわれる。今回のEPAの承認は、そうした状態からの脱却の大きな第一歩となるかもしれない。

 ニューヨーク・タイムズ紙[3]によれば、全米コーン栽培者協会(NCGA)の会長・フレッド・ヨダーは、農民は新たなコーンを熱狂的に採用すると予想している。彼は、「我々は長い間これを待ってきた。根きり虫はNo.1害虫だし、コーン栽培で我々が出会うNo.1の収穫略奪者だ」と言う。ただし、反対の意見もある。GM作物に批判的なコンサルタントであり、ナショナル・リサーチ・カウンシルの前農業スペシャリストでもあるチャ−ルズ・ベンブルックは、モンサントにより出されたデータはすべての根きり虫を殺さないことを示しており、「もしそれが土壌殺虫剤より効かなければ、私は多くの農民が殺虫剤に執着することになると思う」と語ったという。

 

  注掲載以外の関連情報
 
In key Test,U.S. Allow Sale of Genetically Engineered Corn,The Washington Post,03.2.16

  河田昌東 土壌昆虫耐性遺伝子を組み込んだトウモロコシ(MON863)に批判遺伝子組み換え情報室・論説



[1] NEW CORN PEST CONTROL APPROVED BY EPA CAN LEAD TO REDUCED PESTICIDE USE,03.2.25

[2] Monsanto's Rootworm-Protected Biotech Corn Receives Final Regulatory Clearanc,03.2.25

[3] E.P.A. Approves the Use of Monsantos Altered Corn,The New York Times,03.2.26