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EU:法務官意見、EU諸国は健康リスクがあればGM食品を禁止できる

農業情報研究所(WAPIC)

03.3.26

 3月13日、欧州裁判所(EUの司法機関)の最終判決の前に法的な参考意見を述べる法務官(Advocate General)が、新規食品(ノベル・フーズ)は微量の遺伝子改変蛋白質を含むときにも、健康に関して絶対的に安全であるならば、欧州委員会の承認なしの簡易手続で販売できるという意見を発表した。しかし、この意見は、同時に、EU構成国は、当該食品の使用が人間の健康と環境に危険を及ぼすと考える委曲を尽くした根拠があるときには、保護措置を取ることができるとも述べているEuropena Court of Justice Press Release No.18/03,03.3.13。法務官の意見は欧州裁判所を拘束するものではないが、今までのところ、裁判所の判決の80%ほどが法務官の意見に従っており、最終判決に影響を与えることはほ間違いないと思われる。遺伝子組み換え(GM)食品販売のモラトリアムの解除を長年にわたり待望してきたバイテク企業への逆風となる可能性がある。

 この件は、モンサント社と他の2社が、除草剤・害虫耐性トウモロコシから得られた食品−特に粉−の販売と使用を禁止したイタリア政府を訴えていたものである。これら企業は、1997年と1998年に、1997年の新規食品と新規食品成分に関する規則((EC)No.25897)による簡易手続に基づいて、製品を市場に出した。この簡易手続の使用は、新規食品が比較可能な伝統食品と「実質同等」であり、それが国家食品評価機関により立証される場合に許される。イギリス食品当局は、それよりも前に、当該製品が伝統食品と実質同等と認めていたが、イタリア政府は製品の絶対的安全性に疑念を抱き、その販売と使用を禁止した。企業は、これをEU法違反としてイタリア国内裁判所に訴えた。

 このケースでは、コーンミールの加工過程で組み換えDNAは破壊されるが、それにもかかわらず、人間の健康にはリスクをもたらすことのない微量の改変蛋白質(挿入遺伝子の産物)が含まれているという。イタリア国内裁判所は、先行判決(EU条約やEU機関の取った措置の効力や解釈の問題が生じた場合に、国内裁判所が判決のために必要と認めた場合に欧州裁判所の決定を求める制度)のために欧州裁判所にいくつかの問題を提起した。法務官は、この決定のための意見を出したわけである。

 法務官によれば、イタリア裁判所は、第一に、実質同等の概念の解釈を求めた。特に、食品が、なお微量の改変蛋白質を含む場合にも、実質同等があり得るのかどうかを問うた。法務官は、EU法の精神と目的に照らし、新規食品は、それが微量の改変蛋白質を含む場合にも、それが消費者に対するリスクを生まないことが証明されれば、伝統食品と実質同等であり、従って簡易手続により商品化できると結論した。

 イタリア裁判所が提起したもう一つの問題は、EU構成国は、新規食品の実質同等性に疑念がある場合に、自国の保護措置を取る権利がどこまであるのかということである。法務官は、新たな情報、または既存の情報の再評価の結果として、当該食品の使用が人間の健康と環境を危険にさらすと考える委曲を尽くした根拠があるならば、イタリア政府は、規則No.259/93に基づき、暫定措置を取る権利があると結論した。そして、これらの措置は、欧州委員会、または閣僚理事会が、その根拠の有効性にかかわる決定−実際には未だない−を採択するまで維持できると言う。

 法務官は、欧州委員会は、消費者の懸念と批判に照らし、GMO派生製品についての簡易手続はもはや使用しないと合意したし(1998年1月から発効)、欧州委員会の2001年の新規則のための提案も簡易手続を含まないと指摘している。

 このような法的意見にもかかわらず、EU諸国政府がGM食品モラトリアムをどこまで続けられるかは不確かである。米国政府はWTO提訴を考えているし、欧州委員会もモラトリアムの早期解除に向けての圧力を強めている。企業は、イタリア政府が真に新たなリスクの証拠をもたらしたとは考えていない。