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EU新GMO規則成立、GM・非GM共存確保の指針も出たが・・・

農業情報研究所(WAPIC)

03.7.24

 7月22日、遺伝子組み換え体(GMO)を追跡し・表示し、またGMOから派生する食品・飼料の販売と表示を規制するためのEUのシステムを確立する二つの規則が閣僚理事会により公式に採択された(European Commission:European legislative framework for GMOs is now in place,7.22)。その内容は、7月2日に欧州議会が採択した案(⇒EU:GMO新規則に前進、GM世界戦争は不可避,03.7.3)と基本的に変わらない。新規則はEU官報掲載から20日後、今年中には発効する。経済事業者はEU官報掲載後え6ヵ月以内に表示に関する新条項を遵守するための準備を終ねばならない。この採択により、EUにおけるGM作物の大規模営業栽培への道が開かれたことになる。

 GM作物の営業栽培が始まるときに懸念される最大の問題の一つが、GM作物と非GM作物(有機作物・通常作物)との「共存」をどう確保するかの問題である。先の欧州議会採択規則案は、この共存を確保する措置の導入を規定した。最終的に採択された規則も、EU構成国はGMOがの他の製品に偶然に混入することを回避する適切な手段を取ることができるとする一方、欧州委員会に対してこの共存に関するガイドラインを開発するように求めている。欧州委員会は、23日、GM作物と非GM作物の共存を確保するための勧告を発表したというプレス・リリース(European Commission:GMOs: Commission publishes recommendations to ensure co-existence of GM and non-GM crops)を出した。欧州委員会内部での討議のために、このガイドライン(勧告)そのものは未だ見ることができないが、このリリースが述べるところでは次のようなものである。

 GM作物と非GM作物の共存の確保のための欧州委員会ガイドライン

 1.ガイドラインの一般原則

 共存へのアプローチは、科学的証拠に基き、すべての関係者と協同して、透明な方法で開発される必要がある。それは、すべての生産タイプの農業者の利害の均衡を確保すべきである。国家の戦略と最良の慣行は、表示のための法的な(GMO混入率)の限界とGM食品・飼料・種子の純粋性の基準を参照しなければならない。

 措置は、GMO表示の限界レベルを満たすのに必要なことを超えることなく、効率的で、コスト節約でなければならない。偶然の混入の可能性は作物ごとに大きくことなるから、これらの措置は様々なタイプの作物に特定したものでなければならない。ある作物(例:油料種子ナタネ)についてはこの可能性が大きく、別のある作物(例:ポテト)ではこの可能性が非常に小さい。さらに、地方的・地域的側面が十全に考慮されねばならない。

 すべての生産タイプの農業者の利害の公正な均衡を確保する戦略の必要性が強調される。農業者は、近隣における既に確立された生産パターンの変更を強要することなく、自分が選好する生産タイプを選択できるべきである。一般的に、新たなタイプの生産を導入する農業者は、偶然の混合を制限するために必要な対策を実施する責任を負うべきである。最終的には、継続的監視・評価と最良の慣行の時宜を得た共有が措置の改善のために強制される。

 2.指標となる措置の種類

 ガイドラインは、構成国が様々なコンビネーションで適応でき、あるいは利用でき、国家共存戦略と最良の慣行の一部となる措置の完全ではないリストを含む。これらの措置には、

 ・農場レベルの措置(隔離距離、緩衝帯、生垣のようは花粉障壁など)、

 ・近隣農場間の協同(播種計画に関する情報、開花期が異なる作物品種の利用など)、

  ・監視と通知の計画、

  ・農業者の訓練、

  ・情報交換、

  ・助言サービス。 

 3.共存ための措置の適切な規模

 農場レベルで、また作物や製品のタイプ(例:種子生産)で異なる近隣農場との緊密な協同で適用できる管理措置が優先されるべきである。適切ならば、また他の手段で十分なレベルの純粋性が確保できないならば、地域レベルの措置も考えることができる。

 4.共存措置をEUではなく、構成国が決定する理由

 GM食品・飼料のトレーサビリティーと表示に関する規則の採択に続き、GMOの環境への故意の放出に関する指令2001/18/ECが構成国レベルでの共存のための措置の可能性を与えるように修正された。何が効率的で、コスト節約的な最良の慣行であるかを決定する要因の多くは、構成国ごとに、また国土の内部でも大きく異なる国家的・地域的特徴と農業慣行に特有なものである。従って、「ワン・サイズ−フィット・オール」のアプローチは適切でない。

 5.責任

 偶然の混合から生ずる経済的損害の責任の問題に関しては、構成国は、それぞれの民事責任法を検討し、既存の国家法がこれに関して十分で衡平な可能性を提供するかどうかを明らかにするように勧告される。構成国により採択される共存へのアプローチのタイプが国の責任ルールの適用に影響を与える可能性がある。農業者、種子供給者、その他の事業者は、偶然の混入により引き起こされる損害について国で適用される責任基準について十分に情報を与えられねばならない。このことを背景に、構成国は適合する既存の保険スキームの実行可能性と有用性を探査するか、新たなスキームを立ち上げるかすることができる。

 欧州委員会は、2年以内に、構成国の経験とさらなる手段の必要性に関して、閣僚理事会と欧州議会に報告する。

 6.共存とは何か

 共存は、EUの表示と純粋性の基準を満たす通常・有機・GM製品の間での選択を消費者に与える農業者の能力に関係する。共存は、環境と人間の健康にとって安全として許可されたGM作物だけがEUで耕作できるのだから、環境または健康のリスクに関係するものではない。様々なタイプの農業生産は自然には分離されないから、種子の不純・他家受粉・自生(新たな植物の収穫・生産後に土壌に残る種子が翌年以後に自生すること)・収穫貯蔵慣行から生じるGM作物と非GM作物の偶然の混合を管理するためには、栽培・収穫・輸送・貯蔵・加工の間の適切な措置が必要になる。共存は、その価値を下げる恐れのあるGM作物と非GM作物の偶然の混合を通しての経済的損害、混合を最小限にとどめるための機能し得る管理手段の確認、これら措置のコストに関係する。

 環境団体はGMフリーの権利を主張、欧州委は許さず

 有力環境保護団体・「地球の友」は、23日、地球の友、グリーンピース、欧州環境ビューローが共存に関する欧州委員会の勧告を否認したと発表した(EU COMMISSION CALLS GM CONTAMINATION OF ORGANIC FOOD TO BE ALLOWED)。欧州委員会は、新たなGM表示ルール(GM物質を0.9%以上含む成分を含むならば表示が義務とされる)が「通常及び有機農業に同様に」適用されねばならないとしているから、有機作物のGM汚染は許されると言っているのだという。

 しかし、「GM汚染を防止するための地域レベルの措置を考えることができる」と勧告することにより、欧州委員会は地球の友のイギリスでのGMフリー(GM完全排除)・キャンペーンを後押ししたとも言う。地球の友はこのキャンペーンを昨年10月に始めたが、既にウエールズ下院、デボン、ドーセット、ランカシャー、コーンォール、ウォーウィックシャー、スタフォードシャー、サウスグラスターシャー、レーク・デイストリクト・ナショナル・パークがGMフリー政策を支持している。23日にはサマーセット州議会がGMフリーを採択、24日にはカンブリア州も同様の票決を行なう。地球の友は、欧州委員会の勧告は未発表だが、それは法的に拘束的ではなく、構成国は有機作物・通常作物をGM汚染から守る一層厳しい措置を取る権利があると言う。

 だが、欧州委員会は、23日、EU構成国によるGMフリー・ゾーンの設置には断固反対、この場合には欧州裁判所への提訴も辞さないことを確認した(Bruxelles réaffirme son refus de "zone sans OGM" dans l'UE,AFP,7.23)。農業担当欧州委員・フランツ・フィシュラーは、記者会見で、「地域または国土全体がGM製品を絶対に持ち得ないとEU構成国が決定することは不可能だ」と語ったという。彼は、近隣農場の通常作物のGMOによる汚染を防止するために必要なコストを分け合う「経済的に妥当な」方式として、「農業者がGM作物を禁止する認定された区域内で自主的に結集する」ことには賛同するが、構成国の公的権力によりGMフリー区域や地域が決められれば、司法の問題になり得ると主張した。

 強まるGMO拒絶の動き

 EUのGM作物栽培解禁のための法制度は整った。しかし、それに応じてGMO拒否の動きも強まっている。

 フランスでは、23日、農民同盟、ATTACなど六つの反GM団体の15人ほどの活動家がイブリーヌ県のGMトウモロコシ実験圃場を破壊、その後も農民同盟の9人のメンバーが常時「歩哨」に立っている。先週末には、オート・ガロンヌ県のバイエル・クロップサイエンスのGMトウモロコシ実験圃場が破壊された。

 イギリスでは、GMに関する政府主催国民論争が終わりに近づいた16日、セーフウェイ、テスコ、アスダ、セーンズベリーなどの大手スーパーチェーンと取引団体・英国小売コンソーティアムが、消費者が受け入れない以上、1990年代末以来のGM製品排除の政策を変えるつもりはないと宣言した。

 GM拒否はヨーロッパだけでなく、米国でも広がっている。アイダホの米国ポテト製品の最大の供給者は、マクドナルドを含む事実上ほとんどすべてのファスト・フード事業者は非GMポテトを望んでいるとして、生産者にGMポテト生産の停止を呼びかけた。ガーバーとハインツは、ベビーフードからすべてのGM成分を排除し、ハインツはケチャップやその他の製品で使用されるトマトを非GMに変えた。EUで大豆製品を売ろうとする製造者も、GMO表示よりも、GMO成分排除を選ぶだろう。EUの厳しいGMO表示要求が米国食品企業にGM拒否の余波を生んでいる(Big food corporation's fear may hamper biotech acceptance,Soyatech.com,7.22

 GM技術の開発と普及に血眼になるのは、欧州でも、米国でも、バイテク産業と政府(と研究者?)だけのようだ。