農業情報研究所

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タイ:農業バイテク開発8ヵ年計画策定へ

農業情報研究所(WAPIC)

03.8.22

 8月21日付の「バンコク・ポスト」紙(*)によると、”農業に関する国家バイオテクノロジー委員会”が2004年から2012年までの8年間にわたる遺伝子組み換え(GM)を含む開発計画の草案を仕上げた。11品目の商品―ジャスミン米、一般米、食品加工用米、タピオカ、ゴム、砂糖キビ、ラン、商用果実、鑑賞用魚、商用樹木―の品質と生産性を改善するのが狙いという。そのために、細胞・組織・胚にかかわる技術からより進んだ分子育種、遺伝子技術、GMまでの広範な技術を適用する。

 ジャスミン米は、分子育種法で、独特の香りと柔らかさを維持しながら、洪水と干ばつへの抵抗性を強化する。エビ養殖の条件を改善するために、遺伝子技術により微生物が利用される。GMを通して、果実収穫期をコントロールする。また、バイオテクノロジーは、食品の品質チェックや認証などにも利用される。場合によっては、8年以上かけて実現を目指す。このプランは、今週、首相が主宰する国家バイオテクノロジー委員会に送付されたが、なおコメントと変更が可能だ 計画の実施には、主として農業・協同組合省の研究者が責任を負う。同省は、既にバイオテクノロジー研究開発局を立ち上げた。

 ただ、専門家の不足とは別に、同省の研究者は「バイオピラシー」を恐れている。タイの農業研究開発の成果が近隣諸国に流出、貿易上のライバルになる恐れがあるという。既に、多くの商品が近隣諸国に密輸され、これらの国が研究のコストと努力を払うことなく、高品質な商品を生産している。国内で開発された貴重な植物・動物品種の流出をコントロールするための厳重な措置が必要といわれている。

 この報道を見るに、GM食品の健康影響や環境への影響は、少なくともこの委員会ではまったく問題にされていないようだ。こうした開発の社会経済的効果についても同様だ。土地改革は掛け声だけ、依然として巨大企業農場が大部分の土地を占拠し、多数の小農民、土地なし農民が貧困に喘ぐ状況にはどう影響するのか。ブラジルの土地なし農民は、GM作物導入は巨大農場の支配を強めるだけ、多数の小農民を一層貧窮させると、モンサントの農場を占拠してまで反対している。こうした農民を貧困から救い出すというのが農業バイオテクノロジーの約束のはずなのだが。自由貿易協定にせよ、農業バイテクにせよ、何故このような観点からの見直しが等閑視されているのだろうか。

 *Biotech to be harnessed for growth,Bangkok Post,8.21